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新ビジネス創世記:精華小劇場 芝居の地に踏ん張り時

「ミナミのポテンシャルは生かせる」と語る精華小劇場の丸井重樹コーディネーター=大阪市中央区難波3の精華小劇場で、山田耕司撮影
「ミナミのポテンシャルは生かせる」と語る精華小劇場の丸井重樹コーディネーター=大阪市中央区難波3の精華小劇場で、山田耕司撮影

 <毎日新聞大阪発行120年>

 大阪・ミナミの中心部、旧精華小学校の体育館を改修して開設された「精華小劇場」。客席数は約200と小さいが、現代演劇を支援し、紹介する場として演劇界で評価を受けている。しかし、土地・建物の所有者である大阪市は財政難のため、16年までに用地を処分する方針を打ち出しており、存続に黄信号がともっている。【岡田功】

 かつて「浪速五座」と呼ばれる五つの劇場が軒を連ね、芝居文化発祥の地として知られる大阪・道頓堀。しかし今は、高級ブランド店や遊技場が建ち並ぶ街に変容している。

 ライブ感が魅力の演劇だが、「観客に劇場まで足を運んでもらう敷居の高さがある」(丸井重樹コーディネーター)。また、劇場には適正な規模があり、収益はあまり見込めない。経済原理で淘汰(とうた)が進んだ結果とも言える。

 03年から04年初めにかけて、それまで関西の小劇団を支えてきた民間の扇町ミュージアムスクエア、近鉄小劇場が相次いで閉館した。現代演劇の公演の場を守り、再び大阪を舞台芸術の先進地として輝かせようと、大阪市が04年に開設したのが精華小劇場だ。道頓堀のすぐ近く、難波駅に近い一等地にある。

 市、地元、演劇関係者らでつくる実行委員会が運営の主体。全国から劇団を招いて約2カ月間にわたり開催する年3回の演劇祭を柱に、演劇学校やワークショップなども主催し、地元商店街や市が企画するイベントも行われる。演劇祭の開催は11回を数え、劇場来場者は延べ4万人超に達した。

 精華小劇場の“出世頭”は劇団「デス電所」。歌、ダンス、漫才、コント、映像などあらゆるエンターテインメントの要素をちりばめた芝居が特徴で、同劇場で05年に初演した作品は翌年、大阪ガスが主催するOMS戯曲賞大賞を受賞し、東京公演も成功させた。

 しかし、劇場運営のネックとなっているのは一般の知名度の低さと、乏しい財源だ。

 精華小劇場は民間の劇場経営を圧迫しないよう、貸し館事業を行わず、自主事業に専念してきた。つまり照明、音響などの機材使用料、管理スタッフの人件費、劇場使用料などをすべて無料で劇団に提供するが、市の拠出する年間計2100万円の補助金・事業費以外に収入の手立てはない。フル稼働すれば予算オーバーとなってしまうため、稼働率は6~7割にとどまる。また、地元の要請で不審者が入り込まないよう、上演時間以外は校門を締め切っており、はた目には常時閉館しているように見える。

 当初は隣接する小学校校舎も改修して一体整備する構想があったが、立ち消えに。そのためステージしかない精華小劇場には、飲食店はもちろん来場者の待合スペースさえない。追い打ちをかけるように市は昨年、16年までに劇場の用地を処分する方針を打ち出した。

 精華小劇場は自らの存在感と必要性を広く市民にアピールするために、主催事業を行わない期間に限って企画公演を公募する「提携公演」事業を今年度から始めた。現代演劇だけでなく伝統芸能、音楽、舞踊の公演も認める。事実上の貸し館事業で、機材・人件費として1日16万円を公演団体から徴収する。また、舞台作品の製作に自ら乗り出した。関西を拠点に活躍する松本雄吉氏(維新派主宰)が演出、松田正隆氏(マレビトの会代表)が戯曲を担当し、10年2月の上演を目指す。

 丸井コーディネーターは「東京・世田谷区には現代演劇と舞踊のための世田谷パブリックシアターがあり、大小二つの劇場のほか、けいこ場、音響スタジオなども完備している。芸術監督に狂言師の野村萬斎を招き、専門の学芸員も配置して舞台技術講座なども開催する。芸術振興と教育普及活動を担う公立劇場は絶対に必要だ」と訴えている。

 ◆私の提案

 ◇文化施設には磁力がある--丸井重樹・コーディネーター

 街のど真ん中にこそ文化施設を整備すべきだ。地域活性化というと、行政も地元も商業施設に目を奪われがちだが、商業施設には一過性の人しか集まらず、人が根付かない。毎日イベントを打ち続けないとすぐに飽きられてしまう。

 逆に、文化施設は地に足を付けて活動する人を引き付ける磁力がある。文化施設と地域活性化が結び付かないはずがない。10年先、20年先を見越した時に、どちらが魅力ある地域になっているか。長期的な視点で街づくりを考えるべきだ。

 ここ精華小劇場も、隣接する校舎を改修して一体的に整備すれば、ミナミのポテンシャル(潜在力)を生かしたもっと魅力的な施設になるはずだ。アニメなどのサブカルチャーを取り込んでもいい。

 現代演劇を上演する我々のような「現代文化」と、文楽劇場に代表される「伝統文化」が同居するユニークな情報発信拠点を、ここ大阪・ミナミに作りたい。

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 ◇精華小劇場

設立 2004年

住所 大阪市中央区難波3の2の4

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 ■人物略歴

 ◇まるい・しげき

 1974年生まれ。98年京都教育大卒。99~03年末、京都芸術センターアートコーディネーター、04年から精華小劇場コーディネーター。劇団「ベトナムからの笑い声」代表。

毎日新聞 2008年12月16日 大阪夕刊

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