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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>




どうして朝日新聞で不祥事が多発するのか(4)


ジャーナリスト・元朝日新聞常務 青山昌史
聞き手/本誌編集長 大島信三

朝日はまだ挙証責任を果たしていない

 −−もともと朝日はNHKと関係が深いですね。

 青山 NHKには朝日からも会長を送って居るわけですよ、戦後。

 −−前田義徳とか。

 青山 前田さんも送っているし、古垣鐵郎さんも、野村秀雄さんもそうです。それで元社長の渡辺誠毅氏も息子さんをNHKに入れています。たしか宇都宮支局長をやっていたけれど、もう定年になったでしょう。

 私も海老沢(勝二)君に、筆記試験がよくて、人物も問題ないなら、NHKに入れろ、といったことはある。NHKも、一流のいい所で縁は深いんですね。

 −−政治部というのはヘンなところですね。社がちがっても、もちつもたれつで。昔のNHKというのは、朝日の系列のようなものだったということですか。

 青山 戦後すぐは会長を送り込んだという点からいえばね。まあ、向こうもだんだん組織を増強し、記者も増やすし、自前の会長もつくるに至りますわな。でも、毎日新聞から阿部真之助さんも行っています。

 −−NHKは生え抜き会長になって、政治色が強まった。

 青山 傾向としてはそうですね。例えば島桂次君は私と同期でしたが、かれは宏池会の系統だったんです。海老沢君は田中角栄系統ですよね。橋本登美三郎は茨城県潮来の出で田中角栄の盟友でした。その選挙を仕切っていたのが、海老沢君の親父さんと聞きます。橋本登美さんは朝日の東亜部長もやった先輩です。官房長官もやったし、幹事長もやっているんだけれど、私は特ダネを取ったことも、もらったことも一度もないんですよ。

 もともとNHK予算というのは、政府や国会の承認を受ける必要がある。官僚のいろんな審査を受けて、これでよしということで国会に出して承認を受ける。そういう公共放送の建前があるから、政府との関係はかなり密接ですよ。しかし、放送内容ははっきり独立してなきゃいけない。そこへ持ってきて島、海老沢の両君の政治色が強かったことが誤解を受けた。

 −−松尾武・NHK元放送総局長(現日本放送出版協会社長)が、あの番組に対して圧力があったと明確に語ったのか。中川、安倍の両議員が放送前日に松尾氏を呼んで圧力をかけたと朝日記事はいうけれど、指摘された三人は否定している。安倍氏は、呼んだ事実はないという。中川氏は、放送前日には会ってないという。松尾氏は、政治的圧力は受けていないという。一体、事実関係はどうなのか。朝日新聞はまだ具体的にその挙証責任を果たしていません。

 青山 まだ果たしていない。一般的には、どうも島君はおかしいな、海老沢君もちょっとおかしいなという空気はありましたよ。しかし、いつどこでだれがだれに、何の問題で、具体的にこういう圧力があったと挙証する責任が朝日にある。漠然と“圧力があったろう”といっても具体的な証拠がなきゃ駄目ですよ。

 −−事実関係の間違いは、素直に謝ったほうがいいんです。

 青山 もっと早く謝ったらよかった。先延ばしで駄目になっている。今度は自民党が地滑り的勝利を得てね。次はやっぱり安倍氏が台頭するし、中川氏も昇りますよ。いまの執行部、朝日を拒否した執行部は残っていくわけですから。秋山君は正常化したいと気ばかり逸って、前にNHKと自民党、内に社会部をはじめとする社内事情があって、何とかまとめたいけれども名案がない。今度の緊急集会の応答でも、これは明らかだ。

 −−松尾さんは社会部記者の餌食にされましたね。

 青山 松尾という人は二・二六事件のとき射殺された岡田啓介首相の義弟、松尾伝蔵陸軍大佐の孫だそうですね。そもそも記者じゃないというんだが。

 −−ええ。ドラマ畑の出身です。

 青山 記者としての心得が乏しいから、本田君とか高田(誠)君といった百戦錬磨の記者にかかると手も無くやられ、仮に誘導尋問があれば、かかりやすいと思う。かかったほうも責任があるけれど、質問がうまい誘導尋問になっている可能性もある。

 ともかく松尾さんがしゃべったにしても勤務先とか国会でしゃべったんじゃなしに、私邸に訪ねてきた記者に、まあ、上がってくださいって、応じたんですね。いまICレコーダーが流行っているらしいね。

 −−ポケットに入るくらいの小型録音機です。

 青山 それで無断録音をされているとも松尾さんは知らずにベラベラしゃべったのかな。

 −−松尾さんは隠し録(と)りされる可能性は感じていたと思います。録音はダメだと相手に伝えている、と思います。「録らないで下さい」、「わかりました」というやりとりがあったはずです。松尾さんは全国紙の記者だからと、約束を信じたのでしょう。

 識者の中には、公人は盗み録りされても仕方ない、という意見があります。われわれメディア関係者、とくに調査報道に真剣に取り組んでいるジャーナリストにとっては有難いコメントですが、やはり世間は許さないと思います。録音しないでほしい、と頼んでも、約束を守ってもらえない、守らなくともよいというのであれば、もう怖くて取材に応じてくれないでしょう。公人としての自覚がある人はともかくとして。

 青山 私も録られたことがあります。録音しないとなると、羽目をはずしてかなり自由にしゃべるものだ。いまはICが発達し、ネクタイピンにだって潜ませられるわけですからね。

 −−朝日は意識的に目をそらしていますが、NHK問題は深い闇のなかにあります。

 青山 問題の発端となった女性国際戦犯法廷の一件には、はっきりいって北朝鮮の工作員も何かで絡んでいるのだろう。NHKもあんな一方的な模擬法廷を放映したこと自体が問題だ。いくら色を薄めようと、秦郁彦氏らに何かをいわせても、もう始まらない。

 朝日のだれかが資料を同じ傾向のジャーナリスト、つまり共同通信の元記者に流して、それが「月刊現代」に載った。流された方は主張が同様だから喜んで受け取って自分流の原稿を書くのは当然だ。北朝鮮はともかく、朝日とNHKの一部職員、共同OBら構造的にNHK問題に絡んでいるんですね。そして彼らの主張を打ち出している。一番問題はむろん朝日だと思いますよ。

 −−松井やよりという人はご存じですか。

 青山 知っていますよ。朝日も昔から経費の合理化で同じ方面は夜遅くになると一緒の自動車で帰ってくれと。それで松井君と一緒の車に乗せられて帰ったことが一、二度あります。

 −−車の中でどんな話をしましたか。

 青山 何にもいわないんですな。私は当時、川口の鳩ヶ谷というところにいました。赤羽あたりでたしか松井君は降りて、それで私は荒川を渡って行くわけですね。

 私のほうから声をかけたいけれど、ピシッとした感じで話に応ずる気配がない。おそらく松井君は、政治部で多少は名があるけれども堕落した記者だろう、田中角栄とか福田赳夫あたりに供応を受けているんじゃないかと、勝手に思っていたんじゃないですか。松井君は当時、社会部員でした。

 −−もう市民運動家という感じですね。

 青山 そうそう。思い込みが激しく彼女なりに、政治部なんて軽蔑しとるわけですよ。

 −−政治部記者なんて権力者の寄生虫だと。

 青山 そこまで思っていたかどうかはわからないけれど、政治部は堕落しとる。政界の権力者に入れ揚げてもいないんだけれども、向こうにすれば、供応を受けて適当に書いている。田中寄り、あるいは福田寄りの記事を書いていると。そういう認識だったんでしょう。

 赤羽まで当時は三十分ぐらいかかっていたんだけれど、何もしゃべらない。変わった女性だと思いました。

 −−二人っきりですか。

 青山 二人きりのときもあったんですよ。いまでいうジェンダーフリーというか、左翼の確信犯ですよ。本田記者は松井君を尊敬して記者になったというんでしょう。たしか私が西部編集局長のときに採用しているんです。

 −−面接で。

 青山 本田君を見ましたよ、たしかに。

 −−九州の採用ですか。

 青山 いや、九州じゃなくて東京の採用です。代議士の松島みどり君も私が採用したようなもんだが、あれと一緒の頃かな。

 −−松井記者らは、社内ではやっかい者でしたか。

 青山 いや、思想は自由だから、そうも思わない。ただ、社会部の一部には思い込みの激しい確信犯的な者がいたわけですよ。

 −−そうですか。

 青山 さきほど長野総局事件の背後には政治部と社会部の確執があるといいましたけれど、この二つの部だけではないのです。

 私にいわせれば政・経・社、いずれも責任がありますよ。省みて他をいっちゃいかんですよ。私も政治部出身だけれど、政治部をかばうつもりはありません。今度の虚偽メモによる報道など政治部にも責任がある。いま、政治部が編集の枢要ポストを独占していることにも問題がある。秋山君も優柔不断なところがある。

 政・経・社、最近の事件でそれぞれ任がある。そのなかでとくに経済部の責任が重いと思うんです。経済部出身の社長は広岡さん以来、渡辺、中江、箱島と続いた。朝日の今日を招いたのはやっぱり広岡さんの責任が大きいですね。そして昨今は中江君が主流です。

→つづく

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 【略歴】青山昌史氏 昭和四年(一九二九年)、岡山県生まれ。東京大学法学部卒。同二十七年(五二年)、朝日新聞入社。社会部、政治部記者を経て政治部長、西部本社編集局長、取締役広報担当、常務東京本社代表を歴任する。現在、政治評論のジャーナリストとして活躍中。

 「正論」平成17年11月号 論文





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