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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>




どうして朝日新聞で不祥事が多発するのか(1)


ジャーナリスト・元朝日新聞常務 青山昌史
聞き手/本誌編集長 大島信三

読者は知らない政治部と社会部の確執

 −−朝日新聞は九月十五日付朝刊で「検証 虚偽メモ問題」を三ページにわたって掲載しました。周知のように総選挙をめぐる新党結成の動きの中で長野総局のN記者(二十八歳)は田中康夫知事に取材しないで虚偽のメモを本社に送りました。とても信じられない出来事ですが、社内に設置された「信頼される報道のために」委員会の検証結果を読みますと、記者個人の資質もさることながらメール時代の怖さを感じました。

 懲戒解雇されたN記者は、「まさかメールひとつが(本社と)やりとりしないまま丸々使われるとは、知りませんでした」と語っていましたが、朝日編集局内の構造的な問題は想像以上のようです。

 青山 今度の長野総局の事件は、一説では社会部が特に問題にしているというんです。

 つまり今も続くNHK問題では、社会部が主犯だと他の部からやられた。問題の記事を書いた本田(雅和)君は社会部記者ですからね。かれが尊敬していた松井やより君(故人)もそうでした。NHK問題で社会部は幹部も含め取材がずさんで、一方的で、わきも甘いと、ずいぶん咎め立てされた。外部に取材資料が流出しましたが、犯人は社会部関係者ではないか、と疑われているんです。

 −−資料流出の犯人は最初からわかっていると思います。その人物を摘発できる刑事コロンボが残念ながら朝日には一人もいない、という話ではないでしょうか。

 青山 それは社長の秋山(耿太郎(こうたろう))君の決断次第ですよ。秋山君は政治部出身ですが、NHK問題では何とかNHKや自民党との関係を正常化したいと、積極的に取り組んだと思いますよ。

 そこへ長野総局事件が起きた。田中知事との架空会見をつくったのは政治部志望の記者だった。虚偽メモが東京の政治部へ送られて、政治部側は十分な検証もせず、特に亀井静香氏側の取材を怠って、虚偽メモをもとに政治部の記者が記事をつくった。だから政党担当デスクの曽我(豪)君も処分された。同じく処分された長野総局長の金本(裕司)君も政治部出身です。

 だから今度の事件は政治部ぐるみの犯行だと、当然、社会部あたりは問題にしたんですね。とにかく政治部と長野総局が意思の疎通を欠いていたのは事実です。事件の背景には、こういう社会部と政治部の確執があると思う。

 −−やっぱり、そうですか。そんなことなど、全然、読者は知りませんけど。

 青山 六月二十四日の株主総会で社長が箱島(信一)君から秋山君に交代しました。秋山君は常務の三席で、その上に専務が三人いた。普通は専務が社長になるわけです。

 専務三人のうち、一人は経済部出身の君和田(正夫)君で、かれは代表権がある現会長、テレビ朝日の広瀬(道貞)君の後任の社長で出ました。あと二人の専務は社会部出身で、代表権がある大阪本社代表の内海(紀雄)君。もう一人は代表権のない坂東(愛彦)君で、いまは東京代表です。次期社長は順序からいえば、この専務のなかから選ばれるのが普通ですね。

 その下に常務がいて筆頭は小林(泰宏)君で箱島君に近く、かれも社会部出身です。第二席は広告担当ですが、結局、常務第三席の秋山君が抜擢の形で後継社長になったわけです。

 −−社会部出身は朝日の社長になれないのですか。

 青山 そんなことはありませんが、社会部出身の社長というのは、戦後、村山、上野両社主家だけでなく社員からもなれるようになってから、美土路(昌一)さん一人が暫定でいたぐらいで珍しいんですよ。今回は経済部出身に人がいないので、次期社長はこっちだと社会部は相当期待していたようです。

 それが社会部出身の専務や常務を飛び越えて政治部出身の秋山君が社長になった。これには朝日社長は昨今、経済と政治のタスキ掛けという不文律がある。社会部は、常務の三席が何で社長なんだ。今度こそ社会部の中から出すべきではないかと。これが大きなしこりとしてある。

 これまで社長は政治部、経済部の大体回り持ちだった。広岡(知男)さんと渡辺(誠毅)氏が経済部、次に政治部の一柳(東一郎)氏が上がって、その次の中江(利忠)君が経済部。その後、政治部の故松下(宗之)君。それから箱島君が経済部で今度は政治部の番と。そういうタスキ掛け人事の事実もあったけれど、社会部が意欲を燃やしていたのも事実なんです。しかし私は今回、社会部出身に社長たる人材はいなかったと見る。

 −−なるほど。そうしますと、秋山社長は社会部閥にある種の遠慮があるわけですね。しかし、NHK問題のいわゆる実行グループである社会部に大胆にメスを入れないことには、朝日編集局の解体的出直しは不可能でしょう。

 青山 結局、無断録音(昨年八月、慈恵医大事件を機に朝日は禁止している)を認め、昨年の事件と同様、関係者を処分しなきゃ駄目ですよ。思い切って、首を差し出す。それで、いまの悪しき社会部的体質を是正することが先決ですよ。しかし社会部にも、無断録音を横流しした、昨年とは事情が違う、今度、処罰などすると、積極的な取材ができかねる、といった言い分がある。それを秋山君も腹の中で考えているわけでしょ。

 社会部にものがいえない状況でNHKや自民党にものをいえるわけがないじゃないですか。社会部を処罰すると、「一方的だ」と社内の反撃を受けるけれど、それをしなければ自民党の安倍晋三、中川昭一の両氏は受け入れてくれない。安倍、中川の両氏はこれからじゃないですか。これからだけに大事なところですよ。秋山君は政治記者としてバランス感覚は持っていますよ。NHKといい、自民党といい、喧嘩したままじゃ困る。社会部の一部の左翼体質も、口に出せないにしても、むろん知っていると思う。

 −−秋山社長とは面識もありませんが、大胆に取り組んでほしいですね。

 青山 問題は社会部の一部とその背後にいる人物ですよ。社会部もさることながら、その背後に経済部出身の箱島君、中江君がいるかもしれない。特に左翼体質や経営効率について中江、箱島の両氏が待てよといっているかもしれない。秋山君は思い切った社会部の改革をやりたいけれども、一方的に簡単には行かない。秋山君はかつて秘書役として中江君に仕えているし、箱島君からは政権を渡された。当然、遠慮がある。

 −−政界はもう派閥とか親分、子分の関係を断ち切ったというのに、朝日はまだ二十世紀に生きているんですね。

 青山 できないなら、あと自民党とはうまくいかない。いきませんわね。何も自民党に迎合することはないが、取材は正常にやれなきゃいけない。どこでどうけじめをつけるのか。秋山君、しっかりやれと私は応援したいんだけれども、十分にはやれそうもないな。花も嵐も乗り越えてやれば、大したもんだけど。

 でも、さる九月十四日の社員緊急集会で秋山君らは抽象的な決意は述べているが、具体的なことは何もいっていない。

→つづく

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 【略歴】青山昌史氏 昭和四年(一九二九年)、岡山県生まれ。東京大学法学部卒。同二十七年(五二年)、朝日新聞入社。社会部、政治部記者を経て政治部長、西部本社編集局長、取締役広報担当、常務東京本社代表を歴任する。現在、政治評論のジャーナリストとして活躍中。

 「正論」平成17年11月号 論文





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