自治体に寒風が吹きつける中の綱渡りである。来年度の地方財政の指針となる計画が決まった。景気悪化で地方税収入が急速に落ち込む中で一般歳出などの規模はほぼ前年並みを維持した。その結果、財源の不足額は10兆円を突破し、赤字地方債の大量増発などで補てんした。
大分キヤノンなどの人員削減で失職した非正規社員を大分県杵築市が臨時職員として採用するように、自治体は雇用の安全網の機能を果たしうる。政府は雇用創出などの名目で地方交付税を積み増ししたが、公共事業を誘導し過ぎることは好ましくない。自治体も知恵と工夫が問われている。
景気悪化で特に打撃を被ったのは、法人からの税収が豊富で比較的財政に余裕があった自治体だ。財政力が弱い自治体を対象とする交付税が配分されていない東京都が来年度7500億円の税収減を見込んだほか、2700億円が落ち込む愛知県は交付団体への転落が確実だ。トヨタ本社のある同県豊田市は法人市民税の9割もの減収を予想、予算圧縮を迫られている。
地方財政計画も巨額の財源不足を来し、赤字地方債の発行は5兆円を超える。焦点だった交付税は原資となる国税の収入が落ち込む一方で雇用対策などで1兆円を上乗せしたため、前年比で4000億円増額した。地方全体の借金の総額は依然として約200兆円と危機的な水準であり、交付税の増額は従来の「三位一体の改革」の流れに反する。だが、景気にも配慮した暫定措置としてはやむを得まい。
肝心なのは、雇用情勢の厳しい地域に重点配分される交付税の使い道だ。自治体には、かつて国の景気対策を後押しするため借金と抱き合わせで公共事業に走り、財政を悪化させた苦い教訓がある。
校舎の耐震補強など将来に生きる投資はもちろん、公営住宅の活用や失業者救済など、対策は地域の実情に応じ多様であるべきだ。元来使い道が自由な交付税とはいえ、どう活用されたか、事後検証は必要だ。
同時に、国も自治体の雇用対策の支援に、より真剣に取り組む必要がある。市町村が独自に対策に動く現状は、政府の無策の反映であることを恥じるべきだ。次期国会での2次補正予算や来年度予算の成立を待たず、予備費や特別交付税を活用し迅速な支援を講じることは当然だ。法人関連の税収の増減に極端に影響される都道府県などのいびつな財源構造の安定化に向けた議論も急がねばならない。
現在、自治体では約50万人もの臨時・非常勤職員が幅広い職務に従事している。地方財政が圧迫されると、こうした立場の職員に「雇い止め」などのしわ寄せが民間企業と同様に来るおそれもある。地域の雇用に細心の注意を払うことは、自治体の責務である。
毎日新聞 2008年12月22日 東京朝刊