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死刑執行・氏名を公表 法務省、突然の変更(2007年12月8日)

 ◇開示は恣意的との声も

 法務省は7日、3人の死刑を執行し、死刑囚の氏名と犯罪事実、執行場所を初めて公式に発表した。過去10年近く、死刑執行の事実と人数だけの発表が続けられてきたが、この日、鳩山邦夫法相が国会で氏名を読み上げるなど大きな変化をみせた。閉鎖性に大きな風穴が開いた形だが、「死刑の存在価値をアピールするための恣意(しい)的な開示だ」との疑問の声も上がる。【坂本高志、森本英彦、木戸哲】

 7日午前9時過ぎ。鳩山氏は閣議後、福田康夫首相に3人の執行と従来の方針を転換することを報告した。「私の判断で名前を公表します。よろしいですか」。福田首相は「分かりました。被害者の遺族の立場を重視するということでもありますからね」と応じた。

 8月に就任した鳩山氏は歴代法相と違い死刑制度について積極的に発言してきたが、公表は当初否定的だった。「(死刑囚の)遺族感情や他の死刑囚の心情がある」と従来の見解を強調した。だが、10月上旬に始まった省内の勉強会で執行のあり方を議論するうち「ブラックボックスではないか」と思うようになったという。

 執行のサインをした数日前の時点でも「(氏名公表は)見合わせようかと迷った」。最終的に一定の開示は、被害者をはじめ国民に執行が適切に実施されていることを理解してもらうのに役立つと判断した。省内に強烈な反対論はなかったが、「過去」との整合性には配慮すべきだという声はあった。

 同日午後、省内で会見した鳩山氏は「これまでが誤りだったわけではないのだから、遡及(そきゅう)はしない」と述べ、以前執行された死刑囚は公表しないことを明らかにした。

 だが、氏名公表の理由として唐突に「犯罪被害者」の存在が挙げられたことに疑問の声も上がる。弟を殺されながら加害者の死刑囚と面会し、01年の執行に反対した原田正治さん(60)は「死刑を肯定するための一つの言い訳に過ぎない。すべての被害者遺族の声に耳を傾けていないのに」と語った。

 諸沢英道・常磐大大学院教授(被害者学)も「メディアに公表するのは、被害者のためというより犯罪の予防的側面の方が濃いのではないか」と語る。

 ◇勉強会で検討重ね

 「もっと安らかな方法がないのかなという率直な思いはある」。10月24日の衆院法務委員会。鳩山氏は刑法で定める「絞首刑」について、見直しの余地があるとの見解を示した。

 省内の勉強会は非公開だが、副大臣や刑事、矯正などの各局長らが参加。死刑反対の関係者から「死刑の執行を停止し、終身刑を導入すべきだ」などの意見も聞いた。執行方法の他、刑の確定から執行まで平均約7年半以上を要している状況などが検討されているとみられる。ただ、いずれも氏名公表と異なって法改正が壁となっており、鳩山氏も「在任中に(検討の)成果が出るかは分からない」と言葉を濁す。

 情報公開の是非に限っても、検討課題はある。ここ数十年、法相や一部国会議員ら以外に死刑場が公開されたことはない。また、法務・検察が執行のタイミングや順番をどう決めているのかや死刑囚の心身の状況など、「完全にブラックボックス」(死刑廃止団体のメンバー)な部分もある。

 死刑廃止の立場で鳩山氏と面会した菊田幸一・明治大名誉教授は「密行主義には反対だが、氏名と犯罪事実に限って公表するのはごまかし。死刑囚の残酷さは公開するが国が人を殺す残酷さは隠されたまま」と述べ、公開範囲の拡大を求める。

 ◇厳罰化で未執行増加

 7日に3人の死刑が執行され、未執行の死刑囚は全国で104人。死刑確定者は89年以降1ケタだったが、04年以降は10人を超え、今年は既に20人。厳罰化傾向のうえ、実際の執行に7年半以上を要するため、死刑囚が増える流れにある。

 長勢甚遠前法相の命令分とあわせ、今年は計9人に死刑が執行された。76年(12人)以後で最多だが、ある法務省幹部は「執行が追いつかない状況が続くと、死刑制度に対する不信が出てくる」と危惧(きぐ)する。

 一方、死刑をめぐる世界の状況は大きく異なる。「世界の死刑廃止の潮流は政治や宗教、文化の差異を超えて広がっているのに、日本はこの流れに逆行し続けている」。人権団体「アムネスティ・インターナショナル日本」は7日、死刑執行に抗議する声明を出した。

 アムネスティによると、今年10月現在、90の国・地域が死刑を廃止し、11カ国が戦時犯罪などを除いて死刑を廃止している。10年以上執行がない32カ国も含めると133カ国が死刑廃止国だ。死刑を存続させているのは64の国・地域だが、昨年死刑を執行した国は、日本を含めて25カ国しかない。先進諸国で死刑を残しているのは日本と米国だけだが、米国では死刑判決数や執行数は減少傾向にあるという。

 先月15日、国連総会第3委員会(人道問題)で、死刑執行の一時停止を求める決議案が採択され、国際社会で死刑反対の動きは一層強まっている。

 一方、日本では世論調査を行うと存続論が多い。内閣府の世論調査結果では死刑存続を認める意見が初めて8割を超えた。

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 ◆死刑執行を巡る歴代法相の発言◆ 後藤田正晴氏「個人的な思想信条で執行を命令しなければ、初めから法相就任が間違い。法秩序、国家の基本が揺らぐ」(93年3月、3年4カ月ぶりの死刑執行を受け)

 中村正三郎氏「死刑の執行は裁判所の判決に基づいて行う行政行為だから、きちんと国民に知ってもらう必要がある」(98年11月、死刑執行の公表を指示)

 保岡興治氏「凶悪事件では死刑もやむを得ないという一般世論がある。現行制度は刑事政策として適切だ」(00年12月、死刑執行後)

 森山真弓氏「裁判所が決めたことを執行するのが法務省の仕事。法相がその結論を勝手に曲げるのは許されない」(03年9月、死刑執行後)

 南野知恵子氏「人の命を絶つ極めて重大な刑罰なので、慎重な態度で臨んでいるが、確定した裁判の執行は厳正にしなければならない」(05年9月、死刑執行後)

 杉浦正健氏「(死刑執行命令書に)私はサインしません。私の心の問題。宗教観というか哲学の問題です」(05年10月、就任会見で。直後に撤回)

 長勢甚遠氏「これまでの法相の判断はあったかもしれないが、自分は法にのっとり慎重に検討して判断した」(07年4月、異例の国会会期中の死刑執行後)

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 ■死刑に関する鳩山法相の主な発言■

 「法相が絡まなくても、半年以内に執行することが自動的、客観的に進む方法がないか。(確定の)順番通りなのか、乱数表なのか分からないが」(9月25日、内閣総辞職後の会見)

 「この大臣は死刑をバンバンやった、この大臣はしないタイプと分かれるのはおかしい」(同日、福田内閣での再任会見)

 「日本人は命を奪うという行為に対する憤りが強い民族。死刑廃止は非常にドライな発想と思う」(10月17日、毎日新聞のインタビューに)

2008年4月10日

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