「人体の不思議展」青森展の中止を求める市民の会の記者会見資料

2008年5月23日(金)  於 青森県庁県政記者室

 

「人体の不思議展」に疑問をもつ会のHPも御覧下さい。http://sky.geocities.jp/jbpsg355/    

問合わせ先E-mail:jintainon@yahoo.co.jp

1、「人体の不思議展」青森展の概要

開催期間 : 2008年5月24日(土) 〜 7月21日(月・祝) 59日間・会期中無休
開催時間 : <5月24日〜31日>9:00〜17:00(最終入場16:30)

6月1日〜7月21日>9:00〜18:00(最終入場17:30)

場所 : 青森県立美術館
主催  : 人体の不思議展実行委員会(東奥日報社/青森放送)
後援  : 青森県/青森市/弘前大学/青森県教育委員会/青森市教育委員会/青森県立保   

健大学/青森県医師会/青森県歯科医師会/青森県柔道整復師会/青森県放射線技師会/青森県看護協会/青森県臨床衛生検査技師会/青森県薬剤師会青森県予防医学協会/青森県総合健診センター/青森県理学療法士会(順不同)

総合運営・企画: 人体の不思議展実行委員会/マクローズ

 

2、同展の問題点

@人間の遺体の尊厳を冒涜

本物の死体を樹脂加工した標本が多数展示。中には死体を輪切りにしたプレート状のものや、弓を持たせてポーズをとらせているもの胎児標本、さらには人体標本に触るコーナーまでもあった。慰霊碑や献花は皆無(仙台展)。
A死体の展示商品化についてインフォームドコンセントが存在したが疑問

会場の掲示は、献体は生前の意思に基づくとしているが、はたして献体者は上記の方法で観客の目に曝されることまで納得していたのであろうか?通常医学研究・教育を目的とした献体の同意書は、一般公開まで包括していない。さらに、意思を確認できない胎児の標本もある。

B標本は、すべて中国人のもの

仮に日本において、献体の意思を示したとしても、このような標本化と展示は、「死体解剖保存法」によって不可能である。しかし、日本で外国産の標本を展示することが可能であることは、@興行会社が法の網をくぐっていること、A日本の社会に外国人の標本であるが故に黙認するという差別が存在することを意味している。

C死体の商品化

観客から入場料を徴収し、会場にはキーホルダー等を販売する売店がある。いわば死体が金儲けの道具になっている。日本において献体は無償で行われ、医学教育・研究を支えている。仮に自分の遺体が興行用の商品になると知ったら誰が献体などしようか?
D主催者の正体が不明

 主催は、人体の不思議展実行委員会(東奥日報社/青森放送)となっているが、実際の企画・興行の主体は(株)マクローズである。人体の不思議展のHPは、この会社の責任者すら銘記せず、会社問い合わせ先などの情報も公開していない。したがって、主催者の情報開示がなく、正体は不明である。

E主催者・後援者による説明責任の回避

主催する新聞・テレビ会社は、「人体の不思議展」に疑問をもつ会の公開質問状に回答していない。後援をする自治体や教育委員会、大学、地方医師会などの医療・保健関係機関からも回答なし。主催者・後援者ともに同展に関与することの社会的影響について無自覚、無責任である。

F青森県立美術館条例違反

同条例第一条は、美術館の設置目的を「美術その他芸術の鑑賞及び学習の機会並びに創作活動の場の提供を行うことにより、県民の芸術に関する活動への参画を支援し、もって文化の振興を図るため」としています。県立美術館で「人体の不思議展」を開催することは、美術館設置の目的と齟齬を来たす。美術館は貸しホールではないので、美術品ではない標本は、展示できない。
G文部省告示「公立博物館の設置及び運営に関する基準」の無視

同告示第七条一項には、資料の展示に当たって「確実な情報と研究に基づく正確な資料を用いること」に努めるべきとある。しかし、以前「人体の不思議展」に疑問をもつ会は、仙台展の主催者に対して、個人を特定できる部分を削除して献体証明書を開示するように求めたが、拒絶された。生前に弓を射るポーズをとらされたり、観客に触られたりすることを「献体者」が同意していたか否かについて「確実な情報」を欠いた標本展示を行うならば、文部省告示を無視することになる。
H博物館法違反

美術館の設置運営を法的に規定する「博物館法」は、「博物館」とは、「歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関」と定義する。すなわち、展示には一定の教育的配慮を求め、一般公衆が利用するものとして適切なものを供給する責務がある。施設貸出の場合であっても県立美術館が、死体標本を上記のような方法で展示公開することは、博物館法に違反する。

Iマスコミによるタブー化
これまで読売新聞・各地の地方新聞・大手テレビ・ラジオ会社が主催してきており、後援にも朝日新聞・地方新聞が名を連ねて宣伝広告を流してきた。「人体の不思議展」に疑問をもつ会は、日本新聞協会宛にマスコミが同展を主催し宣伝することについて見解を求める公開質問状を送ったが回答が無かった。また、大手新聞各社に働きかけたが、自ら加担したこの人権侵害についてほとんど取り上げようとしない。

J専門家集団の社会的責任回避

有志の働きかけで、以前は後援団体として名を連ねていた日本医師会・日本医学会・日本看護協会等は後援を取り止めた。しかし、それは後援者を降りたことにとどまり、反省や謝罪の声明を伴わず、沈黙しているだけである。日本解剖学会も、沈黙を守っている。

一方、ドイツでは「Body Worlds」と称する同様の興行に対して、ミュンヘン市が禁止した。教育界・宗教界も反対しており、2006年11月にはブランデンブルグ州の教育大臣は、生徒が展示を見ることを禁止している。ドイツ医学界も批判の声を上げ、解剖学会と病理学会は、「解剖学的標本は尊厳を以て扱わなくてはならないし、商業的なものであってはならない」と抗議した。国際解剖学会も非難声明を出している。

同展を容認・放置することは、医学・医療・保健に関係する専門家集団にとって、患者・献体者・被験者から信頼を得ることと矛盾する。

学校の教育者に限らず大人は、子どもに人間の死体をこの展示のように扱うべきではないことを教える存在である。地元の学校では、同展の割引券が配布したところもある。教育委員会が後援することや、教育現場での割引券配布に対しては、教育者は抗議すべきであろう。

死体標本の商品化に抗議することは、専門家集団の社会的責任のひとつではなかろうか。

3、同展の宣伝文に対する反論

宣伝文1(展覧会の趣旨)人体標本といえば医学、特に解剖学という専門分野でしか知り得なかった世界を一般に公開し、人体標本を通じて「人間とは」「命とは」「からだとは」「健康とは」を来場者に理解、実感していただき、またその人体標本が「あなた自身である」ことの共感を得ることです。(人体の不思議展HPより)

反論@現代において人体に関する知識や医学的知見は、コンピューター画像・CTスキャン・PET・精度の高いプラスチック標本、書籍など、倫理的問題の少ない方法によって、プラトミック標本よりもむしろ正確に得ることが出来るようになっている。さらに人体標本の展示は、各大学医学部・医科大学の標本展示館(室)において、無料で一般公開されている。

A展示場の死体標本は生命の無い物体そのものである。この物体の展示は、「生命の神秘」や「人体の有機的連関」や「健康を維持する驚異的なしくみ」そしてかけがえのない「人間の尊厳」を観客に提示するものとはなっていない。

 

宣伝文2(プラトミックとは?)新技術で作られたプラストミック標本は匂いもなく、また弾力性に富み、直に触れて観察でき、常温で半永久的に保存できる画期的な人体標本です。(人体の不思議展HPより)

反論標本の製法は、新技術で展示に便利であるかもしれない。しかし、展示場の標本は、観客にもてあそばされ、傷みも出ている。無理なポーズをとらされているものは、筋肉が破損していて、標本は学術的にも教育的にも低劣である。

宣伝文3(健康の大切さと生命の尊厳の再確認)人体の構造や巧妙な仕組みへの理解は、自分が病にかかった時、医師から受ける診断に対する理解にも関係してきます。海外では早くから『インフォームド・コンセント』という患者の意思を反映させ、医療計画を立てていく考えがありました。すなわち、「自分自身が自分の<からだ>を知らなければ、医師とのコミュニケーションは図れない」という考え方です。(人体の不思議展HPより)

 

反論インフォームド・コンセントの意味をはきちがえた文章である。インフォームド・コンセントの概念が成立した背景には、被験者の同意を得ずに行われた人体実験の実施に対する反省がある。その延長線上に、医者まかせの治療ではない、患者と医師とが協働する営みとして、双方の信頼関係やコミュニケーションの積み重ねの上で成り立つものが、インフォームド・コンセントである。医療現場においては、医療者は適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を得るよう努力する義務があるのであり、患者は、理解できるまで説明を求める権利がある。したがって、患者が知識をもたなければ、医師とのコミュニケーションが図れない、という脅迫めいた文章は、インフォームド・コンセント概念から最も遠い地点に主催者が身を置いていることを図らずも示すものである。

 

4、同展に対する反対活動の拡がり

@同展の主催者・後援者に対する公開質問状の送付(資料1)

A展示会場予定の青森県立美術館への公開質問状の送付(資料2)

B同展の中止の要望書への署名活動(資料3)

C同展批判の新聞投書・仏教寺院の掲示「人体の不思議展」(資料4)

 

5、主催者側あるいは支持者と名乗る者の行動

@愛媛展を後援した愛媛県医師会が、問題点を知った後に後援を降りようとした。しかし、主催者が、掲示したポスターの墨塗り代金を要求した結果、医師会は後援に止まった。

A「人体の不思議展」に疑問をもつ会の事務を行う者の職場へ、支持者を名乗る者(匿名)がいやがらせの電話をかけてきた。

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