地上からは自然の山にしか見えない。肥沃(よく)な大地に威容を横たえる国史跡の造山古墳(岡山市)。古代吉備の栄華を示すシンボルである。
五世紀前半の築造とされる前方後円墳で、全長約三百六十メートル。全国第四位の規模を誇る。宮内庁管理の陵墓を除く、立ち入り自由な古墳としては国内最大だ。
その“眠れる巨墳”についに発掘のメスが入る、と本紙が報じていた。調査に当たるのは岡山大の新納泉教授らの研究チームだ。二〇〇五年から三年がかりでデジタル測量を行い、精細な等高線図や立体画像を完成させた実績もある。
発掘調査は三―四年の計画。来春から、濠(ほり)などの周辺施設を確認するための第一次調査に着手するという。古代吉備はもちろん、わが国の古墳時代像を解明する上でも欠かせない古墳だけに、画期的な考古学調査の行方に期待が集まる。
築造には延べ約百五十万人の労力を要したとの試算もある。大和政権と肩を並べるほど全盛を極めた吉備の王者とは、どんな人物だったのか。巨墳に秘められた謎は奥深い。
今秋、本社主催の講演会「おかやま歴史塾」に登壇した新納教授は「吉備の王者は地域の力を一手に結集し、あそこまで地域を輝かせた」と述べていた。世界に誇れる歴史遺産から貴重な成果が発信される日が待ち遠しい。