PR

北方領土と竹島(上)

2008/7/16

印刷する
ブックマーク:
  • イザ!ブックマーク
  • はてなブックマーク
  • livedoorクリップ
  • Yahoo!ブックマークに登録
北方領土交渉を進めるためにも、韓国による竹島の不法占拠に対して、外務省は毅然(きぜん)たる態度をとらなければならない(ロイター)
北方領土交渉を進めるためにも、韓国による竹島の不法占拠に対して、外務省は毅然(きぜん)たる態度をとらなければならない(ロイター)

 7月8日、洞爺湖で行われた日露首脳会談の結果に関するロシア大統領公式ホームページの発表が興味深い。冒頭から北方領土問題についてとりあげている。

 〈ドミトリー・メドベージェフ露大統領と福田康夫日本国内閣総理大臣は平和条約問題に関する対話を継続した。大統領は、領土問題解決のために、ねばり強い冷静な対話を日本と行うというロシアの意向を確認した。ロシア側は、これだけ困難な決定を行うためには露日間に信頼の雰囲気を醸成することが不可欠だと強調した。このような信頼は、経済、地域ほかの関係拡大によって保障される〉

 ロシアの外交用語で「信頼(ドベーリエ)」というのはとても重要な言葉である。信頼がある国家間では容易に合意が得られるというのがロシア政治エリートの認識だ。〈信頼の雰囲気を醸成することが不可欠〉ということを裏返して言うならば、ロシアの日本に対する信頼が不十分だということだ。

 「わが北方領土を不法占拠しているロシアから信頼が不十分だなどと言われる筋合いはない」と言い返したくなる気持ちを抑えて、冷静に考えてみたい。2001年3月のイルクーツク日露首脳会談で、プーチン大統領(当時、以下役職はすべてその時点のもの)は、歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す意向を表明し、国後島、択捉島の帰属に関する協議についても検討する姿勢をとった。森喜朗総理の要請にプーチン氏は前向きにこたえたのである。その直後に、鈴木宗男(衆議院議員)パージが起きた。川口順子外務大臣、竹内行夫事務次官は、鈴木宗男パージに同調しない官僚を外務省から追放する、もしくは閑職に異動することで「外務官僚の、外務官僚による、外務官僚のための外務省」をつくることに腐心した。その過程で、イルクーツク声明の成果を事実上反故(ほご)にして、対露強硬論に転換した。

 外務官僚は、表面上、「4島一括返還」を強調しながら、実際には本気で北方領土を日本に引き寄せるような交渉をしなかった。そして、松田邦紀ロシア課長は、北方領土の「3島返還論」を持論とする学者に、外務省予算を用いて研究を委託した。松田課長の時代に、「3島返還論」や「面積2分割論」のように、北方領土をバナナのたたき売りで処理するような「提案」が外務省内部から非公式に出てきたのは偶然ではない。自己保身をモットーとする外務官僚にとっては「4島一括返還」でも「3島返還」でも何でもいい。とりあえず、時の外務大臣や外務省幹部におもねって、出世することが目的なので、このような変節を松田氏のような外務官僚は平気で行ったのだ。このような人物とは信頼して交渉することができないとロシア側が不信感をもつのも当然のことである。外務省で、政策を決定する鍵を握るのが課長だ。

 現在、日露関係が正常な軌道に戻りつつあるのは、松田氏に代わって武藤顕氏がロシア課長になり、地道にロシア側と信頼関係を構築したからだ。クレムリン(大統領府)も武藤氏の働きには注目している。それだから、メドベージェフ大統領が「信頼」というキーワードを伝えることで、政治エリート、外交当局者を中心に広範な信頼関係が醸成されれば北方領土問題でロシア側が譲歩することも可能になるというシグナルを送ってきたのだ。

 ここで、北方領土交渉を進めるためにも竹島問題について、日本外務省が毅然(きぜん)たる態度をとることが重要になる。日本が抱える領土問題は、北方領土と竹島の2つだけである(尖閣は日本が実効支配している。中国がクレームをつけても「日中間に領土問題は存在しない」と直ちに却下することだ)。領土問題は国家の根幹である。北方領土と竹島でダブルスタンダードをとってはならない。

 竹島問題について、外務省は今年の2月に実に立派な仕事をした。『竹島問題を理解するための10のポイント』という小冊子を発行し、そこで〈韓国による竹島の占拠は、国際法上何ら根拠がないまま行われている不法占拠であり、韓国がこのような不法占拠に基づいて竹島に対して行ういかなる措置も法的な正当性を有するものではありません〉と日本国家としての立場を明確に述べている。しかし、外務官僚はこの立場と合致しない奇妙な行動をとっている。信じられないような実状を、筆者は島根県の松江市と隠岐町で目の当たりにした。

「ラスプーチンと呼ばれた男 佐藤優の地球を斬る」のニュース一覧

企画特集

注目特集

i. のおすすめ

47クラブ on Buisiness i.

プレゼント