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新帝国主義の選択肢

2007/6/6

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 筆者のところに国際情勢について実用的な本を作ってほしいという要請が編集者や読者から頻繁に寄せられる。いろいろ思案した結果、本連載第1回(「プーチン訪日の真実」2006年1月19日)から第60回(「グルジア元大統領の遺骨)までをまとめて10日に角川学芸出版から上梓することにした。単に連載をまとめるだけならば、既に本紙や本紙ウエブサイトで筆者の論考を読んでいる人々に同じ内容を読んでくれというのは失礼である。そこで3つの要素を付加した。

 第1は、キーワード解説である。その中には、一般の国際情勢解説書には見られないが情勢を知るために必要な、アルミニウム・ロビー、ロシア・マフィアなどをあえてキーワードに取り上げた。

 第2は検証文である。連載コラムでは、タブーに挑戦し、外務省の内部事情についても相当踏み込んだ話を書いた。当然、外務省は陰に陽にさまざまな反応をしてきた。例えば、筆者が服部年伸サムシングインターナショナル社長のロシアにおける人脈の深さと情報の正確さを評価したら(第10回「『謀略は誠』の意味」06年3月23日、第11回「インテリジェンス能力」同30日)、突然、外務省が服部氏との調査委託契約を打ち切った事実など、情報入手や高度な分析よりも組織のメンツを重視する外務官僚の姿について検証文で紹介した。

 コラムで分析した予測が外れた場合も検証文でその理由について記した。例えば、06年7月5日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際に、筆者はこの時点で北朝鮮が既に核実験を行うという腹を固めていたことを見抜けなかった。日本からの経済協力を得るための「揺さぶり」として「ノドン」、「テポドン」という弾道ミサイル・カードを使ったとみていたが、これは誤りだった。

 筆者が尊敬する北朝鮮専門家の鈴木琢磨毎日新聞編集委員から「北朝鮮のイデオロギーが主体思想から先軍思想に転換する礼砲がテポドン発射だ」という評価を聞いたとき、筆者はハンマーで頭を殴られたような衝撃を覚えた。公開情報を基に北朝鮮のイデオロギー分析をきちんと行っていれば、北朝鮮における軍事テクノクラートが占める位置が決定的に強化されたということは明白で、弾道ミサイル発射後、そう時間を経ずに核実験が行われるということは予想できたはずだった。筆者が現役の外務省主任分析官だったならば、この点について気付かなかったことは進退伺を提出するくらいの失態だ。自己批判の意味も込めて検証文をつづった。

 第3は前書きと後書きである。新聞連載という制約から、国際情勢の大きな構造転換についてはなかなか筆者に読者の見方を提示することができなかった。その点について、かなり踏み込んで筆者の見方を書いた。骨子だけを述べるならば次の通りだ。東西冷戦終結後、平和な時代がやってくるというのは幻想だった。新自由主義、市場原理主義など名称はさまざまであるが、要は純粋な資本主義である。この純粋な資本主義がすくすくと発展していくと2つの問題が生じる。第1は、国内における格差の拡大だ。第2は、帝国主義的傾向の強化だ。ここで筆者は帝国主義を価値中立的概念として用いる。株式会社が主流になり、商品よりも資本の輸出が主流となる最高段階の資本主義のことだ。

 共産党体制の中華人民共和国も資本輸出を行っているので立派な帝国主義国だ。帝国主義の時代では、各国が自らの国益を露骨に打ち出し、折り合いをつける勢力均衡外交が基本になる。その場合、ごり押しをする国家についても、当該国を戦争でたたきつぶすことと妥協して均衡点を見いだすことを天秤(てんびん)にかけて、妥協の方が有利になるという見積もりになれば、結果としてごり押しをする国家が得をする。1938年のミュンヘン会談でイギリス、フランスから妥協を取り付けチェコスロバキアからズデーテン地方を獲得したナチス・ドイツと同じような「成果」を現在、北朝鮮が獲得している。

 このような状況に「ケシカラン」と反発しても事態は改善しない。狭義の外交力、すなわち政治家、外交官の情報(インテリジェンス)感覚や交渉力を強化し、新帝国主義時代においても日本国家と日本人が生き残っていける状況を作ることだ。帝国主義の選択肢には戦争で問題を解決することも含まれる。これは良いとか悪いとかいう問題でなく、国際政治の構造が転換したことによるものだ。その現実を読者に理解してほしいのである。

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