車輪のような器具を使って作業する繊維工場の女性労働者=17日、インド北部ハリヤナ州パニパット、高野写す
この繊維工場でも海外からの受注が4割ほど減り、給与がカットされた=17日、インド北部ハリヤナ州パニパット、高野写す
金融危機をきっかけとする世界経済の減速が、繊維産業で働くインドの貧困層を直撃している。欧米などへの輸出の急減で失業者が急増。政府が支援に乗り出したが、効果は限定的で、毎週のようにデモが起きるなど社会不安を増幅しかねない状況だ。パキスタンやスリランカなど、アジアの他の途上国にも危機は広がっている。
「仕事がありません。以下の者は、今日から工場にこなくて結構です」
インド北部のハリヤナ州パニパットに住むラムカランさん(38)は4カ月前の朝、工場の入り口の張り紙を見て愕然(がくぜん)とした。自分を含む103人の名があった。カーペットやベッドカバーを生産するこの工場で18年間、手作業で綿の糸を作ってきた。
20歳の時に隣のウッタルプラデシュ州の農村から出てきた。故郷には3人兄弟で0.5エーカー(2千平方メートル)の土地しかなく、3人の子持ちとなった今は戻る場所はない。解雇から1週間後、小さな屋台を借り、スラムでインドの軽食サモサを売り始めた。
月収は約1500ルピー(約3千円)と、約3分の1に減った。生活苦で9月以降、街の金貸しからすでに1万2千ルピーを借りた。年利は24%。「返せる見込みはないが、ほかに生きるすべがない」
パニパットはインド有数の繊維製品の産地だが、約30万人の繊維労働者のうち、この半年ですでに約10万人が職を失った。労働者の8割はインドでも最貧州とされる東部のビハール州、ウッタルプラデシュ州からの出稼ぎ。全インド商業労働組合の地元支部によると、多くは食べていけないことを承知で故郷の農村に戻った。
インドには従業員を簡単に解雇できない厳しい労働法があるが、30万人のうち対象となるのは、約4万人の正規社員だけだ。