「デザイン・フォーラム」のオープニングを飾ったのは、イタリアのデザインハウス「ピニンファリーナ(Pininfarina S.p.A)」で、フェラーリやマセラティといった超高級車のデザインを手がける奥山清行氏だ。壇上に立った奥山氏ははじめに、「今日は、欧州で長年クルマのデザインに携わってきた経験を踏まえて、日本人の中にあるデザインのDNAとはなにかについて語りたい」と挨拶した。
こうした課題を解決していくためのヒントとして、奥山氏は「イタリアでの経験から、これからのものづくりは“アイデンティティ”と“クリエイティビティ”そして“ブランディング”を改めて見直す必要があるのではないか」と語る。
「今のものづくりにおいてアイデンティティがなぜ重要かと言いますと、類似商品が混在する市場で圧倒的な競争力を持つのは、価格ではなく、その製品のアイデンティティだからです。よく“商品のコモディティ化”などと言われますが、どれほど斬新な製品を出しても、類似商品が出てくれば、価格競争になっていくのは経済の大原則であり、当たり前のことなのです。それを避けるためには、製品のアイデンティティと企業哲学を明確化すること、すなわちブランディングが必要。ブランドとは、“コストと価格の不透明性”を維持することと言うことができます。これによって価格競争に巻き込まれずに済むのです」(奥山氏)。
現在、日本の多くの企業が、“コストや業務の可視化(見える化)”を叫び、価格の「透明性」こそビジネスを成功に導くのだといった考え方が主流になりつつある。そうした中で、奥山氏が言うように「あえて製品のコストを不透明化する、情報公開しない」というのは一見リスクの高い方法にも受け取れる。それにもかかわらず、顧客も作り手も満足させてしまうのが、ブランドの力だ。その一つの例として、奥山氏は2002年に発表したフェラーリの「エンツォ(Enzo)」というクルマの売り方を紹介した。
当時、奥山氏は「なんという“高飛車”な販売プロセスだろうか」と大きなショックを受けたそうだ。この例から、どれほど値段が高くても、人にものを欲しがらせる仕組みを作ることができ、ブランドや企業哲学というものがいかに市場に生き残る上で強力であるかということを学んだという。