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【記者コラム:越中春秋】

回顧編’08 ■4■ 呼吸器外しで書類送検

2008年12月21日

人工呼吸器を外された患者7人が死亡し、医師2人が殺人容疑で書類送検された射水市民病院=射水市朴木で、本社ヘリ「まなづる」から

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延命治療をどう線引き

 射水市民病院で二〇〇〇−〇五年に入院患者七人が人工呼吸器を取り外された後に死亡した問題は、七月に当時の外科第一部長の医師(53)ら二人が殺人容疑で書類送検されて節目を迎えた。問題発覚以降、延命治療の中止のガイドライン(指針)づくりが進むが、医師にとって刑事訴追の基準は示されていない状況だ。

 送検された医師は取材に対し、取り外しについては一貫して「脳死状態だった。患者や家族との『あうんの呼吸』だ」と主張。遺族も「よくやってくれた」など処罰感情はなかった。

 県警は「取り外せば死ぬことは分かっていた」とし、医師に殺意があったとみて捜査を開始。死亡と取り外しの因果関係は確認できたとするが、どれだけ死亡が早まったかは明確に分からないまま捜査を終了。書類送検では重い刑事処分を求める意見を付けず、判断は検察に委ねる形となった。

 一連の問題は、現在の法体系では殺人に問わざるを得ない警察と延命を望まない患者や遺族との間に、治療中止の線引きがあいまいになっていた現実を突きつけた。

 厚生労働省は昨年五月、延命治療の中止は医師個人でなく、医療チームで判断するとした初の指針を発表したが、治療中止の基準は提示しなかった。このため日本救急医学会が、救急医療の現場で延命治療を中止できる基準を盛り込んだ指針をまとめた。

 しかし同学会が今年八、九月に実施したアンケートでは、救急専門医の八割強が指針を現場で使っていないと答えた。理由は「法的問題が未解決」が最多。刑事訴追への恐れが二の足を踏ませている現状を浮き彫りにした。

 射水問題を契機に、延命治療や終末期医療についての議論が活発化。無理に心臓を動かし続けることを望まない患者や家族が少なくないことも明らかになり、人の最期をどう決めるかという世論はかつてないほど高まりをみせた。

 厚労省は本年度中にも、延命治療の中止基準が必要かどうか結論を出したいとしている。しかし、その間にも医療現場では、患者の死と向き合っている医師たちがいる。納得いく指針づくりは待ったなしだ。 (対比地貴浩)

 

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