ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン宮城> 記事

多文化共生、願う響き/韓国伝統プンムル

2008年12月21日

写真

 名刺を渡すたびに「めずらしい名前ですね」と言われるが、それは韓国人ゆえ。ただ、仕事を始めてから日本語に追いまくられているので母国語を忘れつつある。考え方も日本式になっているような。ここらでいっちょう民族魂を取り戻してみるか。韓国の伝統芸能、プンムルを習いに行ってみた。(安仁周)

 プンムルは豊作を祈って村の祭りや行事などで演奏される音楽。雷雨風雲の音を現すケンガリ(鐘)、チャング(杖鼓(じょう・こ))、プク(太鼓)、ジン(銅鑼(ど・ら))の四つの打楽器を使って演奏し、「風物(プン・ムル)」とも書く。韓国では古くから農民の生活とともにあり、今でもあちこちでプンムルの音を聞くことができる。

 韓国にいたころ、楽しい席にはいつもプンムルがあった。音に合わせて歌ったり舞ったりするのも楽しいけど、どうせならたたいてみたい。ずっとそう思っていたが果たせずにいた。そんな折、民団(在日本大韓民国民団)の青年会にプンムルサークルがあるとの情報を入手。いそいそとJR仙台駅近くの民団宮城県地方本部へ向かった。

 民団青年会では朝鮮半島にルーツを持つ18歳から30歳までの青年が集い、様々な活動を行っている。プンムルサークルもそのひとつだ。

 この日、練習に参加したのは約10人。仕事や学校の帰りに集まって毎週練習を続けている。七夕祭りのパレードや、最近では公民館での演奏などあちこちでプンムルを披露しているという。

 さっそく衣装に着替えて練習開始。プンムルの花形楽器、チャングをたたかせてもらうことになった。チャングは砂時計のような形をした太鼓。たたく面は左右の側面にある。あぐらをかいて床にすわり、チャングが動かないように足で固定。左は先端が丸いバチで、右は細い竹のバチを持ってたたく。

 「左をたたくときは『クン』、右が『タ』、両方あわせて『ドン』。基本のリズムはドンドンクンタクン」

 青年会の金柾史(キム・ヂョン・サ)会長(31)が見本を見せてくれる。右は親指と薬指を内側にしてバチを持ち、左は親指と人さし指でバチを挟んでたたく。ただたたくだけかと思いきや大間違い。「ドン」という深い音が出ず、「テン」と間の抜けた音しか出ない。

 黄(ファン)支保(ジ・ボ)さんが「手の力を抜かないと筋肉痛になりますよ」と笑う。「左は振り下ろすように、右は太鼓の端から真横にたたいてみて下さい」

 アドバイスどおりにやってみると、だんだんチャングの音らしくなってきた。基本のリズムを口ずさみながらたたく。そのうち李東晋(イ・ドン・ジン)さん(28)がケンガリの甲高い音でリズムを取ってくれ、プクやジンもそれに続いた。耳鳴りがしそうなほどのにぎやかな音。懐かしさがこみあげ、たどたどしい手つきで夢中になってたたいた。

 最後に締めのあいさつを習う。プンムルは礼に始まり礼に終わる。

 ドンドンドドドン…

 右手の竹バチを思い切りたたく。ジンの音が鳴り全員で深々と一礼。心地よい余韻にひたり、壮快感が広がった。

 練習後、一緒に晩ご飯を食べた。会話は自然とアイデンティティーに関する話題に。日本での生活と韓国での生活が半々になり、時に自分が何者なのかよくわからなくなると打ち明けると、東晋(ドン・ジン)さんが、小学生の時にパスポートを作って初めて自分が韓国籍だと知ったことなどを話してくれた。

 「僕らは生粋の韓国人とは違うし、日本人とも違う。ただそういった違いをそのまま受け入れてもらいたい」

 心に響いた。

 多文化共生に向かう今、いつまでも国籍という枠組みにとらわれる必要はないのかもしれない。

 「また一緒にチャングをたたきましょうね」と支保(ジ・ボ)さん。民団は職場のすぐ近く。またチャングをたたきに行こう。

PR情報
朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

ここから広告です

広告終わり

広告終わり