「何でおれが」。12月4日、江別市の北翔大4年の男子学生(21)は、東京のIT関連会社から就職内定の取り消し通知を受け取った。「銀行の貸し渋りにより……」。理由がつづられた文面を目で追っても、さっぱり頭に入ってこない。浮かんでくるのは長かった就職活動だけだった。
IT業界を目指し、本格的に就活を始めたのは2月から。友人たちが次々と内定を得る中、慣れないスーツに身を包む日が続いた。「おれのどこが悪いんだ」。最終面接で落とされるたびに胸の中で毒づいた。ようやくIT関連会社から内定を受けたのは9月中旬。「評価してくれた」と感謝さえした。10月1日には内定式にも出席。後は卒論を仕上げるだけだった。
IT関連会社は数年前、上場企業の役員経験もある社長が設立した。好況を追い風に札幌市内に事業所を開設したが、この秋以降、突然の不況に直面。運転資金に窮するようになった。社員数人を解雇し、男子学生を含む道内の2大学1専門学校の計5人の内定を取り消した。
「内定を出した当時より経営がさらに悪化した。個人資産も処分して運転資金を捻出(ねんしゅつ)したが、ここまで資金が回らなくなるとは……。5人には本当に申し訳ない」。社長はうめくように話した。
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厚生労働省によると、道内で内定が取り消された学生は11月25日現在7人。今回の5人は含まれておらず、今月末に改めて発表される調査結果では倍増する可能性がある。
5人のうち1人が在籍する札幌市内の私大の就職担当者は「この時期の取り消しは一生を棒に振る可能性がある」と憤る。内定取り消しは企業の信用にかかわる問題だ。取り消された2人を抱える専門学校は「とりあえず入社させた後にリストラしたり、試用期間満了とともに解雇するケースも出てくるのでは」と危惧(きぐ)する。
現に補償金と引き換えに内定を辞退するよう持ちかけたり、入社を9月に延期すると連絡してきたところもある。いずれも「企業から取り消すのでない」という思惑が明白だ。
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北翔大の男子学生にはその後、会社からの連絡はなく、補償はあきらめている。実家は神奈川県にあり、弟が来春、大学に進む。「いつまでも親に頼れない。早く自立しなくては」と強く思うが、「今は就活へのモチベーションがわかない」
この2週間ほど、卒論に忙しい毎日を送った。逆にそれが将来に対する不安を紛らわせてくれている。とりあえず卒業し、アルバイトで生活しながらIT業界に再挑戦するつもりだ。だが、景気回復の見込みは険しく、就職戦線がより厳しくなるのは確実だ。「今更何を言っても仕方がない」。男子学生は怒りを押し殺すようにつぶやいた。【立山清也、写真も】
毎日新聞 2008年12月20日 19時44分