2009年度予算の財務省原案は一般会計規模が過去最大に膨れあがる一方、税収でその半分しか賄えない深刻な姿となった。金融危機による急速な景気悪化に配慮するのは当然だが、予算案からは不況脱出への中長期的な戦略が見えてこない。財政の悪化も著しく、将来への不安も募る予算案といわざるを得ない。
麻生太郎首相のもとで初の予算案は、9月の米証券大手リーマン・ブラザーズ破綻に端を発した経済環境の激変で景気配慮に軸足を移した。08年度第2次補正予算も生活や雇用、金融の安定策を盛り込んだ。
社会保障抑制を繕う
09年度一般会計予算の規模は88兆円台、政策の実行に充てる一般歳出も51兆円台と、いずれも過去最大だ。基礎年金の国庫負担割合を2分の1に高めた影響もあるが、予算編成の終盤で1兆円の緊急予備費を上積みしたり、地方自治体の減収に対する国の穴埋めを広げたりしたことが効いた。
企業や消費者の心理が一気に冷え込む今回の不況のもとで、財政による景気の下支えは急務だ。欠かせないのはそれをいかに有効に使い、非効率な制度を改革して予算の効果を高めるかという視点である。
予算案全体を眺めると、次期衆院選をにらんで、経済効果よりも選挙民の受けを優先したものが目立つ。2次補正に盛り込んだ2兆円の定額給付金がその典型だ。いま大切なのは、短期で劇的に悪化する雇用への手当てなどを集中的に実施し、中長期で成長力につながる投資も並行して進めることだ。耐震化や温暖化対応などいずれ必要な支出の前倒しや、経済の体質を強める新産業の基盤づくりが考えられる。
今回から分野別配分は首相主導で割り振る3300億円の「重要課題推進枠」が決まるまで不明になった。正確な論評は難しいものの、予算案からは明確な戦略と工夫が伝わってこない。物流の競争力を左右する羽田空港の発着枠拡大や中枢港湾の整備費は3―4%増だが、重要度からみてもっとメリハリを効かせるべきではないか。
制度改革も物足りない。社会保障費は5年間で増加額を1兆1000億円抑える06年の「骨太の方針」に沿うペースを保ったが、年金の特別会計にあった基金の清算などで新たな財源をひねり出し、辛うじて数字を達成したのが実情だ。
基礎年金の国庫負担率を高める財源は09、10年度の2年間、財政投融資特別会計の準備金で生じた余裕の財源、いわゆる「埋蔵金」を流用する。本来は消費税増税など安定財源で賄うのが筋である。景気悪化の中で当面は困難としても、安定性が乏しく、財政悪化の責任もあいまいな埋蔵金頼みは感心できない。
政府・与党には社会保障抑制が限界にきたとの声も出ているが、医療や介護で患者や利用者の立場に立った制度改革を実施し、歳出を効率化するのが本来の姿である。そうした努力の跡はほとんどみられない。
来年度予算編成の焦点だった道路特定財源の一般財源化もあいまいな結果に終わった。環境対策など「生活者財源」にするという触れ込みだったが、道路関係議員の強い抵抗を受けて8割を道路に使う地方向け交付金を設けるなど、既得権益の岩盤は崩せなかった。この1兆円の交付金から社会保障財源としてわずか600億円を振り向けただけである。
09年度の税収は、法人税の急激な落ち込みを主因に今年度当初を7兆円以上も下回る46兆円台に低迷する。一般会計総額に対する税収の割合は52%と過去最低で、文字通りの自転車操業だ。
借金財政は最悪水準に
税収見積もりの前提となる09年度政府経済見通しは経済成長率を実質で0.0%、名目で0.1%と見込んだが、民間予測はマイナス1%程度ともっと厳しい。
収入の穴を埋める借金も増える。09年度に新たに発行する国債は8兆円増の約33兆3000億円と4年ぶりに30兆円の大台を上回る。さらに特別会計の「埋蔵金」でひねり出した4兆2000億円も国債で賄ったと仮定すれば、国債発行額は99年度の37兆5000億円を超し、過去最悪の規模になる計算だ。
当然、財政状況の物差しとなる基礎的財政収支(プライマリーバランス)は大幅に悪化する。国債の償還や利払いの経費である国債費を新規の国債発行額が13兆円上回り、基礎収支の赤字幅は今年度当初の2.5倍に拡大する。11年度までに赤字をゼロにする政府目標の達成は極めて厳しいが、財政の節度を維持するためにも、財政目標の旗を現時点で下ろすべきではないだろう。
中長期で日本経済が成長しないと財政の健全化も遠のく。目先の不況対策とともに将来への種まきが重要だ。予算案が両面で力不足な内容に終わりそうなことは残念だ。