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麻生政権で初の通年予算となる09年度の財務省原案が示された。来年は確実に総選挙がある。それを前にした予算は、政府・与党が国民に示す政策メッセージの集大成であるはずだ。
世界的規模で広がる金融危機や深刻化する不況を克服して、次の成長軌道を描く。その長期戦略の一端でもなければならない。
総額88兆5500億円で08年度を5.5兆円も上回り当初ベースで過去最大に膨らんだ予算は、麻生政権の姿さながら旧態依然の公共事業や地方へのばらまきが目立つ。残念ながら新たな時代を切り開く先導役にはなれまい。
■財政規律は形ばかり
しかも、歳出抑制の体裁は維持しつつ、実態は財政出動の帳尻あわせばかりだ。06年度の骨太方針で決めた社会保障費の抑制幅2200億円を残したものの、それは形だけ。埋蔵金や道路財源を転用して財源が手当てできたとして、抑制するのは230億円にとどまる。公共事業費も削減をいいながら、不況対策の予備費や地方交付税の増額各1兆円の中に、別口の公共事業が潜り込む可能性が高い。
かつてない世界同時不況の中では、歳出カットに努めてきた財政を、いま経済の下支えのため緩めざるを得ないのは間違いない。
しかし、財政規律を守ったふりをしながら、ちまちまと財政出動を盛り込んだ結果、どれだけが一時的な緊急対策なのか見えにくくなった。これでは景気回復後に元へ戻すべき歳出規模が不透明になり、はたして規律を取り戻せるか、強い懸念が残る。
一時的に財政路線を転換するのならそれを明確にし、集中的に予算を投入する優先分野を決め、国民の納得を得なくてはならない。そうでないとばらまきの寄せ集めに終わってしまう。
■麻生政権の限界あらわ
道路特定財源についても福田政権から一般財源化を引き継いだものの、結局は大半が従来通り道路建設に回る。旧来の支持層に配慮して、大胆な切り込みができない。自民党政権の限界を示している。
同時に、支出の無駄ゼロへの取り組みも進んではいない。随意契約が多く補助金などへの切り込みは見えない。族議員と官僚の権限に政治が切り込めないことを意味している。
そればかりか、予算膨張の財源や、基礎年金への国庫負担拡大には、財政投融資特別会計などの剰余金、いわゆる埋蔵金が投入された。
埋蔵金は2兆円の定額給付金の元手にも流用されており、増税を嫌う政治家にせっつかれて、官僚たちが次から次に繰り出した。一体どれだけ隠れた財源があるのか、その「へそくり」の多さに国民はあきれている。
これだけあっけなく献上されるのを見ると、準備しておくことが本当に必要なのか、納得がいかなくなってくる。こうした剰余金はなくし、一般会計へ戻すべきではないのか。それなくして負担増などは言い出せない。
予算をこうして眺めると、そもそも選挙の顔として期待された政権が、予想外の経済危機に直面し、旧来型の発想で支持基盤へばらまく予算をかき集めた、といわざるを得ない。
足元の雇用対策や地方対策はもちろん大切だが、同時に、5年先10年先の日本経済の将来像を見越した長期構想こそ重要だ。いかに経済に競争力をつけ、次の成長ステージを準備するか。それがなければ、危機を克服しても、その後の国際競争から立ち遅れ、衰退していくしかない。
エネルギーや環境対策などへの投資をどう強めていくか。少子高齢化社会にふさわしい社会資本をいかに築いていくか。こうした大胆な青写真がとりわけ選挙の年の予算には不可欠だ。
■民主党もビジョンを
金融危機の震源地、米国では、オバマ次期大統領が危機脱出のための計画の一環として、低炭素社会への競争力確保を打ち出した。10年間で1500億ドル(約14兆円)を、再生可能エネルギーの開発に投資する計画を掲げている。グリーン・ニューディールといわれるものだ。
1930年代、大恐慌を大規模ダムなどの公共事業で乗り切ろうとしたニューディール計画を手本にしたものだ。これによって500万人の雇用を作り出すという。成功すれば、石油に頼らない21世紀型経済社会のモデルを米国が創造するかも知れない。
日本は、銀行破綻(はたん)などが起きておらず、バブルの被害が少ないはずなのに、こうした野心的な計画をなぜ打ち出せないのか。政治に自前のビジョンが乏しいからだ。
その責任は与党だけにあるのではない。選挙で政権選択を競う民主党にも、同じ重さを担って欲しい。
無論、予算を編成できるのは現政権だけだ。しかし、ビジョンの優劣を競って国民がそれを支持すれば、政権奪取後に、そのビジョンに沿って予算を組み替えることもできる。
今月訪米し、30人を超す政財界関係者と会談した民主党の岡田克也副代表は、オバマ構想について「将来につながる投資は非常に大事。日本でももちろん必要だ」と述べている。
外需頼みの産業構造と、危機に対しばらまきしかできない政治を「チェンジ」する。そんな日本版ニューディールを練り、選挙で示してほしい。