インターネット脅威年間レポート - 2008年度(速報)

2008年度インターネット脅威年間レポート 「Webからの脅威」の発端が多様化、セキュリティ意識の盲点が攻撃の狙い目に

~2008年1月1日~12月15日データ速報~

 トレンドマイクロ株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長 兼 CEO:エバ・チェン 東証一部:4704 以下 トレンドマイクロ)は、2008年度のインターネット脅威レポート(日本国内)をお知らせします。

 2008年の不正プログラム感染被害の総報告数は54680件で、2007年同時期の61870件から約11.6%減少しています。しかし、USBメモリをはじめとするリムーバブルメディアの不正な設定ファイル「MAL_OTORUN(オートラン)」の被害が非常に目立つ一年となりました。「MAL_OTORUN」は、2008年1月から11月までの期間において通算8ヶ月で1位となり、年間の2570件は、被害の分散化が進んだ2005年以来、年間で最も報告数を集めた不正プログラムとなっています(表1)。

 また、コンピュータに侵入した不正プログラムがWebサイトに接続し、別のプログラムをダウンロードする「Webからの脅威」が感染報告のほとんどを占める状況となっており、攻撃者にとっては、いかに最初の攻撃を成功させ、悪意のWebアクセスにつなげるかが関心事になっています。
 攻撃の発端となる侵入経路は多様化しており、ユーザが注意を払うアンダーグラウンドなWebサイトやアダルトサイト、英語の迷惑メール以外に、一般にセキュリティ意識の盲点となるUSBメモリや正規Webサイトの改ざんといった手法まで広がりを見せています。加えて、偽セキュリティソフトを代表とするソーシャルエンジニアリング手法による詐欺・脅しといった手口も流行しました。

 攻撃の最終目標は換金できる情報をコンピュータ・ネットワークから盗み取ることにあり、2008年はオンラインゲームに関連したID・パスワード情報を狙う不正プログラムが最も多く発見されました(表2)。海外ドメインで配布された不正プログラムで日本国内のユーザが被害を受けるケースも多く、国・地域に依存しにくいインターネット犯罪として、ローリスクで金銭を取得しやすいものが今後も標的になると考えられます。攻撃者は、情報をより効率的に盗むため、ユーザに気付かれないよう不正プログラムを侵入させ、見えない形でWebによる連鎖活動を行うことにますます注力していくことでしょう。2008年はUSBメモリによる感染が目立ちましたが、リムーバブルメディアであるSDカードやCFカードにも同様の危険性は存在し、少ないながらも実際に感染が報告されてきています。攻撃者がユーザの盲点を狙ってくる以上、「これに注意すれば絶対に大丈夫」と思う自信が隙につながる恐れがあります。

表1:不正プログラム感染被害報告数ランキング 2008年度

順位

検出名

通称

種別

件数

前年順位

1位

MAL_OTORUN

オートラン

その他

2570件

NEW

2位

BKDR_AGENT

エージェント

バックドア

786件

1位

3位

JS_IFRAME

アイフレーム

Java Script

578件

NEW

4位

MAL_HIFRM

ハイフレーム

その他

427件

NEW

5位

TROJ_GAMETHIEF

ゲームシーフ

トロイの木馬型

405件

NEW

6位

TSPY_ONLINEG

オンラインゲーム

トロイの木馬型

297件

圏外

7位

TROJ_LINEAGE

リネージュ

トロイの木馬型

259件

圏外

8位

TROJ_VUNDO

ヴァンドー

トロイの木馬型

255件

2位

9位

TROJ_RENOS

レノス

トロイの木馬型

226件

圏外

10位

TROJ_CABAT

キャバット

トロイの木馬型

187件

NEW


※このランキングは、2008年1月1日から12月15日までに、日本のトレンドマイクロのサポートセンターに寄せられたウイルス被害件数をもとにランク付けを行ったものです。本数値は、2008年12月18日現在の情報に基づき作成されたものです。今後、サポート調査により、件数に変更が生じる可能性があります。被害件数はウイルス発見のみの数字も含みます。
※個々の検出名に関しては、亜種も含んでカウントしています。

2008年度の脅威傾向 トレンドマイクロ リージョナルトレンドラボ コメント

2008年の総括:多様な経路から不正プログラムが侵入し、「Webからの脅威」に発展
 2008年はWebで連鎖的に不正プログラムをダウンロードする「Webからの脅威」が定番になり、そのきっかけとなる手法は多様化しました。従来の不正なWebや迷惑メール以外からも不正プログラムが侵入し、自動的にWebサイトへ接続し、結果的に「Webからの脅威」に発展します。攻撃者はいまやあらゆる手段を用いて、複合感染のきっかけとなる不正プログラムをユーザのコンピュータに侵入させ、換金性の高い情報を盗み取ることに注力しています。そのため手口の多様化・巧妙化はますます進んでおり、よりユーザのセキュリティ意識が低い経路が狙われています。

トピック(1):リムーバブルメディアによる再感染―USBワーム
 2月より登場したリムーバブルメディアの不正な設定ファイル「MAL_OTORUN」が蔓延しました。コンピュータ・ネットワークのようにセキュリティソフト等による定期的な検査・管理が行き届きにくいUSBメモリ等の物理的なデータ移動手段が盲点として狙われています。USBメモリの使用前にウイルス対策ソフトで手動検索をするとともに、不特定多数の人とUSBメモリを共有しないなどの運用面の見直しも必要です。

トピック(2):換金性の高い情報の搾取―オンラインゲームを狙う不正プログラム
 オンラインゲーム関連の不正プログラムは、攻撃者の注力度ランキング(表2)で1位となり、Web上で盛んに配布され、攻撃者の注力度が最も高かった不正プログラムです。これらはキー入力情報を盗む、パスワードが設定されているファイルを外部に送信するなどの方法を使います。今後は同様の手口が、他の換金性のある情報を盗む目的で使われる可能性もあります。

トピック(3):ユーザの不安感を煽る脅しの手口―偽セキュリティソフト
 8月、9月には偽セキュリティソフト「TROJ_FAKEAV(フェイクエイブイ)」が流行しました。以前から偽セキュリティソフトは確認されていましたが、不安感を煽るためにデスクトップの壁紙を偽のウイルス感染警告を表示するものに変更するなど、ユーザを巧妙に騙すものになっています。もし、見慣れない警告が表示されても、慌てずに信頼できるメーカーのサポートセンターや周囲の方に相談することをお勧めします。

トピック(4):正規サイトの改ざん―SQLインジェクションを自動化する不正プログラム
 7月には、「TROJ_ASPROX(アスプロクス)」に感染したコンピュータによる大量のWeb改ざんが発生しました。この際には日本国内で約1万ページ、全世界で最大21万ページに改ざんの可能性が確認されました。以降も断続的にSQLインジェクションによるWeb改ざんが発生しており、不正プログラムを配布する準備の一つとして一般化してきていると思われます。Webサイトの運営側は、自身のサイトに脆弱性がないか定期的にチェック・対策を行うことがこれまで以上に重要になってきています。

グラフ1: 不正プログラム感染被害報告数月別グラフ(2001年1月1日~2008年11月)

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表2:不正プログラム別 攻撃者注力度ランキング(既知および新規) 2008年1月1日~12月15日

順位

検出名

ユニーク数×URL数

1位

TSPY_ONLINEG

2803483 (3733×751)

2位

TROJ_AGENT

2206274 (2303×958)

3位

TROJ_DLOADER

1956668 (1876×1043)

4位

DIAL_SAPIR

425628 (3378×126)

5位

TROJ_DROPPER

205326 (561×366)


 不正プログラムの種類(ユニーク数)と配布機会の多さ(URL数)により、攻撃者側の注力度がわかります。1位の「TSPY_ONLINEG」はオンラインゲーム関連の不正プログラムであり、オンラインゲームのアカウント情報は、攻撃者にとって最も金銭的利益を得やすい情報となっています。

表3:トップレベルドメイン別の取得検体数ランキング 2008年1月1日~12月15日

順位

トップドメイン

のべ数

1位

com(商用サイト)

270286

2位

cn(中国)

49109

3位

net(ネットワーク)

32029

4位

org(教育機関)

8629

5位

info(情報提供)

6860

6位

pl(ポーランド)

6436

7位

fr(フランス)

4932

8位

ar(アルゼンチン)

4173

9位

ru(ロシア)

3439

10位

kr(韓国)

2156


 1位の「com」に続き、中国「cn」が2位となっています。中国は、国別では次点のポーランドの7倍以上となり、背景としてレンタルサーバのコストメリットなどが考えられます。

※表2・3は、日本のリージョナルトレンドラボ・スレットモニタリングセンターのハニーポット等で収集した不正プログラムの状況です。「ユニーク数」はファイルとして異なるものをカウントした数、「のべ数」は取得したファイルの総数です。「既知」は入手時点で当社データベースに登録済みのファイル、「新規」は解析後に不正プログラムとして登録したファイルです。

今後、懸念される脅威の傾向:「Webからの脅威」の多様化とマスへの攻撃のリバイバル
 完全に定番となった「Webからの脅威」は、今後も継続すると考えられます。一方、複合感染の発端となる侵入口は多様化の傾向にあります。攻撃者は最初の不正プログラムをいかにコンピュータに侵入させるかに手法を凝らしてくるでしょう。2008年は、USBメモリが目立ちましたが、同様のリムーバブルメディアであるSDカードやCFカード等による感染にも注意が必要となります。攻撃の入り口としては、正規サイトの改ざんやユーザを欺くソーシャルエンジニアリングも続くことが予測されます。
 また、標的を絞ったターゲット型の攻撃も残る一方で、不特定多数への攻撃もリバイバルの傾向にあります。無差別にWeb改ざんを行う不正プログラムなどはその典型です。オンラインゲームのアカウント情報詐取を代表とするローリスク・ローリターンの行為を繰り返すことで大きな利益を得るアンダーグラウンドビジネスでは、手当たり次第の攻撃も有効となっている背景がうかがえます。

※TRENDMICROはトレンドマイクロ株式会社の登録商標です。

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