日銀が十九日、十月に続く二度目の利下げに踏み切った。米連邦準備制度理事会(FRB)が事実上のゼロ金利政策に移行し、日米の政策金利が逆転したことから、急激な円高が景気をさらに冷え込ませるとの懸念が高まっていた。日銀がFRBに追随したのは避けられない判断であろう。
決定は、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を現行の年0・3%程度から0・1%程度に引き下げた。政策委員八人中一人が反対した。
日本の政策金利はもともと低く、利下げの余地は狭い。日銀内部には0・2%利下げを十月に実施したばかりであることから、追加利下げに慎重な意見があった。
だが、米国がゼロ金利に踏み切ったことで為替市場では日米の金利逆転を材料に円を買う動きが強まった。円高は、自動車などの輸出企業に大きな打撃を与え、景気をますます悪化させる。市場には日銀が政策金利を据え置けば円高が加速するとの見方が広がっていた。日銀は、利下げを温存しておける状況にはないと判断したのだろう。
決定会合では、企業の資金繰りが厳しさを増す年末が迫っているだけに、支援のため企業の資金調達手段であるコマーシャルペーパー(CP)の買い取りと、長期国債の買い入れ増額も決定した。市場や企業への資金供給の拡大が狙いで、事実上の量的緩和によって景気を下支えする姿勢を鮮明に打ち出したといえよう。
政府は、すでに深刻化する企業の資金調達難を解消しようと日本政策投資銀行によるCPの購入などの緊急対策を決めている。決定会合前には中川昭一財務相兼金融担当相が資金供給拡大など金融面での追加策に対する期待を語っていた。日銀が金融や経済危機克服へ歩調を合わせた形だ。
押し寄せる世界同時不況の荒波を、日米の金融政策などによって食い止めることができるかどうかは不透明だ。大胆な政策が必要だが、日銀はゼロ金利政策への移行は踏みとどまった。ゼロ金利は市場機能を損ねるとの懸念が根強いからだろう。
日本でかつて採用されたゼロ金利政策では、過剰な資金供給が副作用を生んだ。「マネーゲーム」の象徴とされたライブドア騒動などは極めて低い金利で借りた資金を元手に企業買収を繰り返して株価をつり上げた。苦い経験であり、超低金利は劇薬ともいえる。日銀は教訓を生かさなければならない。
中国が経済の改革・開放政策をスタートさせて三十周年を迎えた。胡錦濤国家主席は、北京で開いた記念式典で「世界が注目する新しい偉大な成果を達成した」と総括してみせた。
改革・開放政策は、一九七八年十二月に開かれた中国共産党第十一期中央委員会第三回総会で導入が決まった。社会主義計画経済に、一部資本主義的な競争原理を採り入れ、対外的に経済開放を進めるのが柱だ。
以後、中国は年平均10%近い経済成長を達成し、昨年の国内総生産(GDP)は日本の75%の規模に達し、今年中に世界第三位の経済大国になる見込みだ。今年は北京五輪の開催や有人宇宙船の打ち上げなどで、世界の注目を浴びた。
しかし、高度成長が多くのひずみを生んでいることは明らかだ。都市と農村の格差が開き、国民の貧富の差も拡大した。利益のみを求めた乱開発により住民の健康をむしばむ環境破壊も起きている。
官僚の腐敗も深刻だ。地方政府が業者と結託、土地を強制収用し、警官が暴行するなど、当局へ集団抗議や暴動に発展するケースが増えている。共産党にのみ権力が集中し、国民に政治参画の道が閉ざされていることが背景にあるのではないか。
胡主席は改革・開放で多くの矛盾が生じたことは認めながらも、政治改革については「西側の政治制度をモデルにすることは決してない」と述べた。しかし、開放が進めば進むほど改革を求める動きは強くなろう。
先日、民主化を求めて作家や弁護士ら三百三人が署名した「〇八憲章」がネットで発表されると、多くの市民が応じたのは、政治改革の遅れへの不満の強さを示している。国際社会の信頼を得るためにも、中国指導部の対応が問われる。
(2008年12月20日掲載)