アマデウスたち

バックナンバー一覧

このページを印刷

【第59回】 2008年12月19日

会田 誠
毒をもって現代アートに風穴を開ける

会田 誠
写真 加藤昌人

 半分に切断された四肢に包帯を巻き付けた裸体の美少女が、首輪をはめられ、鎖につながれながらも無垢な表情で、雪月花を愛でる。代表作である「犬」シリーズ三部作のモチーフだ。透徹した美と嗜虐性が並置され、鑑賞者に、ただ漫然と眺めることを許さず、思考を強要することはあっても、賛美や共感を求めはしない。

 翼賛芸術家たちへの強烈な皮肉を塗り込めた「戦争画リターンズ」シリーズ。ホームレスが住み家を追われた東京・新宿駅西口に、段ボールを積んでよみがえらせた「新宿城」。縊死の道具でありながら、その機能を果たさない「自殺未遂マシーン」。絵画にとどまらず、パフォーマンスアートから漫画、小説まで創作ジャンルは広く、作風は七変化する。

 ドイツのヨーゼフ・ボイスのように、芸術と社会の関係性を大上段から問いかけはしない。だが、会田作品のすべてに散りばめられた毒は、人びとの意識を、社会を、時代を、びりびりと刺激せずにはおかない。

 歴史を塗り替えたものにこそ価値がある――気鋭の共通認識が、欧米で現代アートを花開かせ、美術を衰退から救った。対して「趣味的、感覚的に過ぎるのではないか」と、日本の現代アートを憂う。誰かが波風を立て、風穴を開けなければならない。

 「本当は主体性のない人間。そんなしんどいことをやりたいわけじゃない」。確信犯的に、トリックスターを演じているのだ。

(ジャーナリスト 田原 寛)

会田 誠(Makoto Aida)●現代美術家。1965年生まれ。東京藝術大学美術学部絵画油画専攻卒業、同大学院美術研究科修了。村上隆らと並んでネオジャポニズムを代表するアーティストの一人。ニューヨークのICP(国際写真センター)で開かれている展覧会に立体作品と写真作品を出品中(2008年9月7日まで)。

関連キーワード:モチベーション キャリア・資格 人物・経営者

ソーシャルブックマークへ投稿: このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をYahoo!ブックマークに投稿 この記事をBuzzurlに投稿 この記事をトピックイットに投稿 この記事をlivedoorクリップに投稿 この記事をnewsingに投稿 この記事をdel.icio.usに投稿

おすすめ関連記事

special topics

バックナンバー

第59回 会田 誠 毒をもって現代アートに風穴を開ける (2008年12月19日)
第58回 柿沼康二 漆黒の線に赤い血がほとばしる (2008年12月12日)
第57回 赤星隆幸 「患者に光を」その私心なき直向き (2008年12月05日)
第56回 小久保英一郎 シミュレーションで宇宙を探検する (2008年11月28日)
第55回 中村清吾 コンピュータと鍼灸師の祖父に学ぶ (2008年11月21日)
第54回 志賀理江子 死に向かう時間を止める祈り (2008年11月14日)

注目の特集

【異色対談 小飼弾vs勝間和代「一言啓上」】

勝間和代と小飼弾、カリスマ2人が語り合う豪華対談

知的生産術の女王・勝間和代、カリスマαブロガー・小飼弾が、ネット広告から、グーグルの本質、天才論に至るまで持論を徹底的に語り合った。豪華対談を6回にわたって連載する。

ページの上に戻る

強力コラム執筆陣が時代を斬る!

JavascriptをONにしてください

この連載について

様々なジャンル、フィールドで活躍する異才にスポットをあてて紹介する。自身の原点となったコト・モノをはじめ、自身が描く夢まで素顔の異才達が登場する。