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2008年12月20日

◎日銀利下げ 景気、円高にらみ常識的判断

 日銀が金融政策決定会合で、追加利下げに踏み切った。景気の一段の悪化と、さらなる 円高を抑制する狙いである。政策金利0・1%は、実質的にはゼロ金利と変わらず、先に事実上のゼロ金利へ移行した米国と歩調を合わせたかたちである。

 為替市場では、日米の金利水準の逆転を受けて、ドルよりも金利の高い円を買う動きが 強まり、一時、円高が加速した。日銀の利下げは、円高圧力を和らげ、金融政策での日米協調をアピールする効果がある。

 利下げ余地が乏しいことから、景気浮揚にはつながらないとの見方もあるが、日銀の強 い姿勢を内外に示した意味は大きい。利下げは景気と円高の双方をにらんだ常識的な判断である。

 日銀が下げ幅を0・3%ではなく、0・2%にとどめたのは、金融政策の手段をわずか でも残しておきたいという思いからだろう。だが、0・1%の政策金利が腰だめの数字になるとは思えない。ゼロ金利の象徴的な意味を思えば、0・3%の引き下げでも良かったのではないか。

 会合では、企業が短期の資金繰りのために発行するコマーシャルペーパー(CP)の買 い入れを時限的に実施することも決めた。企業の破たんリスクを日銀が負うのは好ましいことではないが、CPの新規発行は大幅に減っており、これ以上の信用収縮は、個別企業の破たん以上に危険である。CPを発行できない中小企業の資金繰りの支援は、政府や自治体がしっかり目配りする必要があるだろう。

 日銀の利下げが決まった直後、市場は、それほど大きく反応しなかった。市場予想とほ ぼ同じだったからだが、それは日銀がやるべきことを常識的な線にまとめ、的確に手を打った証左である。景気はまだまだ底を打つ気配はなく、円高トレンドも続く。これからは「量的緩和」にかじを切って行かざるを得ないだろう。

 政府は十九日の経済対策閣僚会議で、総額四十三兆円の「生活防衛のための緊急対策」 をまとめた。しかし、ほとんどが年明け以降の実施であり、政治の影が薄く感じられるのは残念というほかない。

◎トキ「里帰り」 長い目で夢を育てよう

 トキの分散飼育地に石川県が決まったことは、本州最後の生息地に再びトキが戻ってく るという点で感慨ひとしおの朗報である。野生動物の一つの種が地域の生態系から姿を消したという事実は石川の戦後史にも刻まれ、自然とのかかわりに深く思いを至らせる出来事である。そのトキを再び飼育し、この地で増やす取り組みは大きな挑戦といえる。

 佐渡では九月に試験放鳥が始まり、その行方に全国の関心が集まっている。石川県でも 野生復帰に期待する声が早くも高まっているが、能登で姿を消した昭和四十年代とは自然環境も住民の生活も大きく変化し、その道のりは平たんではない。まずは受け入れ体制を万全に整えることが大事である。焦らず、長い目でトキがよみがえる夢を育てていきたい。

 石川県は名乗りを挙げていた出雲市、長岡市とともに選ばれ、それぞれ二ペア四羽が移 送される。いしかわ動物園での近縁種の繁殖実績や飼育技術などが評価されたものだが、トキ保護に半生をかけて取り組んできたNPO法人日中朱鷺(とき)保護協会名誉会長、村本義雄さん(羽咋市)の存在も忘れるわけにはいかない。三十八年前に姿を消してもなお、県民にトキへの思慕が強いのは村本さんらの献身的な活動があったからである。

 分散飼育は鳥インフルエンザなど感染症による絶滅を避けるための措置で、あくまで「 種の保存」が目的である。このため繁殖ケージは当面非公開となり、トキの姿は監視モニターで公開される。

 分散飼育に関しては佐渡市民の間で抵抗感が強く、島内の別の場所で分散飼育地を探る 動きも出ている。島外での公開についても否定的な声がある。環境省の原則非公開の方針はトキ保護に努力してきた佐渡への配慮もあろう。

 だが、県民の幅広い理解や支持を得るためには積極的な情報提供が欠かせない。静かな 環境を維持することは言うまでもないが、公開の在り方は今後の検討課題となろう。飼育地としての信頼を得るためにも、石川県は抜かりなく準備を進め、実績を着実に積み上げていく必要がある。


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