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【社説】

日銀利下げ 物足りなさが残った

2008年12月20日

 日銀が利下げした。新しい政策金利の誘導目標は0・1%。いかにも中途半端で、物足りなさが残る。景気悪化の深刻さは過去に例がないほどだ。いずれ、ゼロ金利の復活は避けられそうにない。

 日銀が利下げを決めた日、トヨタ自動車の二〇〇九年三月期決算が営業損益で赤字に転落する見通しが報じられた。赤字転落なら、約半世紀ぶりという。徹底した効率経営で知られるトヨタが赤字なら、輸出製造業は軒並み大打撃であるに違いない。

 物価連動国債の利回りが示す最近の物価上昇率予想はマイナス2%台半ばまで下落した。世界的な金融不安で海外投資家が投げ売りしたという混乱要素を割り引いたとしても、市場は本格的デフレの到来を予測している。

 「楽観的政策目標」として知られる政府経済見通しですら、〇九年度は実質ゼロ%成長と〇二年度以来、七年ぶりの過去最低だ。

 日銀に先立ち、米連邦準備制度理事会(FRB)は事実上のゼロ金利と量的緩和政策の導入に踏み切った。景気回復と物価安定に「すべての手段を動員する」と思い切りの良さが際立っている。

 こうした景気の現状とFRBの果断な対応に比べて、日銀の利下げは優柔不断とさえ映る。株式市場は利下げに反応して一時、上昇に転じたものの、結局、小幅安で終わった。為替も一ドル=八八円台の小幅安にとどまり、市場の失望感がにじみ出ている。

 今回の利下げで、日米金利差は縮小したものの、完全には解消しない。これでは円高は止まらないのではないか。円高は輸出製造業への打撃を通じて株安を招く。株安は金融機関の貸し渋りから一層の景気悪化要因になる。

 半面、評価できるのは、長期国債の買い入れ増額と企業が発行する約束手形の一種であるコマーシャルペーパー(CP)の時限的買い入れだ。長期国債は今回、月額二千億円の増額にとどめたが、今後の展開次第では、一段の増額も視野に入れるべきだ。

 企業の資金繰りは急速に悪化している。先に日本政策投資銀行がCP買い入れを決めたが、政投銀が購入するだけでは、市中に流れる通貨の量は変わらない。日銀による買い入れは、デフレ阻止にも効果を発揮する。

 利下げで家計の預金金利も下がる。高齢者など金利収入に頼る世帯には打撃だろうが、失業と倒産の増加を避けて、将来の利益に備える姿勢も必要だ。

 

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