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【社説】

学力テスト もうやめてはどうか

2008年12月20日

 全国学力テストは子供の学力向上に役立っているのか疑わしい。詳細な成績を公表すれば自治体や学校を序列化する懸念も消えない。文部科学省は来年度も続けるというが、もうやめてはどうか。

 小学六年と中学三年を対象にした全国一斉学力テストは来年度で復活してから三回目となる。文科省は成績の扱いについて、市町村別や学校別での公表を禁じた現行の実施要領を維持するという。

 これには橋下徹大阪府知事が怒っている。橋下知事は十月、市町村別データの一部を実名で公表した。住民の目に触れさせて自治体を奮起させ、学力向上につなげたいとの狙いからだ。

 学力テストは全国規模で学力状況を調べ、学校現場や教育委員会の課題を明らかにすることが目的という。しかし、肝心の子供の学力向上に役立っているのか。

 昨年と今年で得られた傾向に大きな変化はなかった。データが膨大で分析に時間がかかり、テストを受けた子供に利用しにくいという問題も浮上した。昨年は「授業の中で活用した」学校は小中学校とも半数に至らなかった。

 テストを学力向上に結びつけるとしたら、結果を詳細に分析して対策を講じ、そしてあらためて検証していくのが手順だろう。

 公立小中学校の設置者は市町村だが、都道府県教委が予算と人事権を握っており、市町村のできることは限られる。都道府県は結果を分析し、成績不振だった市町村に対策をとったのだろうか。

 具体的には財政的支援だろう。少人数教育や習熟度別指導を行うには人員がいる。それなのに、市町村別で公表すれば、序列だけが独り歩きする。都道府県別の平均点でさえ“ランキング”化し、都道府県を一喜一憂させている。

 かつての全国テストが中止になった要因に、先生が誤答を指さして子供に気づかせ、成績を上げようとした行為があった。東京都足立区の独自テストでも同じような不正が発覚した。そんな愚行が繰り返されるおそれがある。

 子供それぞれの学力を測るだけなら、学校ごとに行う試験や自治体独自のテストで十分だ。

 日本全体の傾向を把握したいのなら、学習到達度調査(PISA)や国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)といった国際調査の活用で足りるだろう。

 教育は自治体が主体となって行うものだ。「全国一斉」にとらわれず、市町村は地域の実情を踏まえて子供と向き合ってほしい。

 

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