今年の男子ゴルフ界は文字通り「遼クンに始まり、遼クンで終わった」1年だった。
昨年5月、高校1年生でプロのツアーに出場し、史上最年少の15歳で優勝を飾った石川遼選手。今年1月、杉並学院高に在籍したままプロゴルファーになった。プロ1年目のシーズンは獲得賞金が1億円を突破、賞金ランキングも5位に入る好成績を残し、周囲の期待に応えた。どれも前代未聞のことだ。
得意のドライバーの飛距離はトップクラス。しかもアプローチやパットなどの小技もベテランのプロ顔負けの技術の高さを見せた。若さを前面に押し出した積極的な一打一打が新鮮で、魅力にあふれていた。マスコミへの対応もはつらつとしていて、17歳の少年とは思えないほど落ち着いた受け答え。好感度は高まる一方だった。
波及効果も小さくない。石川選手が出場するトーナメントは軒並み多くのギャラリーが詰めかけた。シーズントータルのツアー入場者数は前年比約23%増の52万人で、7年ぶりに50万人台にのせた。また、優勝争いに絡んだシーズン終盤の4試合の最終日のテレビ視聴率は10%を超した(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。
若いスター選手が次々と登場し、人気が高まっていた女子ゴルフ界に引き換え、低迷していた男子ゴルフ界だったが、石川選手の登場で、一気にファンの目が集まるようになった。ツアー最終戦の終了後、石川選手は先輩プロたちの手で胴上げされた。みんなが「救世主」と認めたからこそだろう。
12年前、タイガー・ウッズ選手が前人未到の全米アマ選手権3連覇の実績を残してプロへの転向を表明すると、スポーツ用品メーカー、ナイキは4000万ドル(約35億円)のスポンサー契約を結び世界中を驚かせた。その後のウッズ選手の活躍は説明するまでもない。一人のスター選手の登場が経済界に強烈な刺激を与え、ゴルフを通じ巨大ビジネスに成長していった。
石川選手もウッズ選手には及ばないが、13社と総額約23億円の大型契約を結んでいる。石川選手の将来性を買っての先行投資だったろうが、1年目から上々の滑り出しとなった。
世界規模の経済収縮でスポーツ界にも冷たい逆風が吹き付けている。そんな時だけに石川選手には来シーズン以降もゴルフを通じて日本中に希望と元気を与えてほしいものだ。
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2008年も残りわずか。この1年の大きな出来事を振り返る。まずは明るい未曽有を。
毎日新聞 2008年12月20日 東京朝刊