現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

日銀も利下げ―資金が回るよう全力で

 日本銀行が政策金利を0.3%から0.1%へと引き下げた。この決定はまずは妥当だといえよう。

 日銀が先にまとめた企業短期経済観測調査(短観)でも、景気が第1次石油危機以来の急スピードで降下していることがはっきりした。さらに、米国が史上初となる事実上のゼロ金利と量的緩和政策に踏み切った。日米金利が逆転して、すでに90円を突破している為替相場がさらに円高へ振れるリスクも膨らんでいる。

 円高対策としては、利下げの効果はそう大きいとは思えない。いま起きているのは円高ではなく、ドル安だ。したがって、無秩序なドル売りが広がるようなら、政府は米国などと協調して為替市場に介入し、投機的な動きを断固として抑える覚悟が必要だ。

 日銀はこれ以上金利を下げると短期金融市場の機能を低下させ逆効果だとして、慎重だった。それが、いきなりゼロ金利にせず、0.1%ながらプラスを維持した理由だろう。今後は、企業が資金を調達する金融市場へのテコ入れ策がますます重要になる。

 そこで日銀は、企業が短期の資金繰りのために発行するコマーシャルペーパー(CP)を買い入れることにも時限的に踏み切った。企業金融にかかわるCP以外の金融商品へも対象を広げる構えだ。プラス金利を維持したまま量的緩和政策に踏み出した、ともいえる。これまではCPなどを担保に銀行へ融資する範囲にとどまっていた。この決定も大いに評価したい。

 通貨価値の安定を最優先しなければならない日銀が、企業の倒産リスクを覚悟する形でCPなどを買い切るのは極めて異例である。深刻な危機を受けた時限措置としたのも当然だ。

 ただし、万が一にも倒産リスクが現実のものになった場合は、日銀の財務基盤が傷つく。似た例は、97年に破綻(はたん)した山一証券への特別融資でも起きた。このときは、日銀が利益から国庫に納付する金額を、焦げ付いた金額だけ減らして解決した。

 今回も、政府との協力なくしては、思い切った効果を発揮できない。焦げ付いたら財政で負担し、日銀への信頼性を保つ仕組みを設けるべきだ。

 同時に、日銀の独立性への信頼も欠かせぬ基盤である。今週、日銀へ利下げを促すような発言が閣僚たちから相次いだが、日銀の独立を傷つけかねない行為は慎んだ方がいい。

 日本と米国の中央銀行はともに、考えられる政策を総動員する方向へ踏み出した。当座の危機をしのぐために避けられない選択といえる。

 だが、これにより生み出される過剰流動性の種が、将来のインフレやバブルを生む危険を伴う劇薬であることも事実だ。未到の政策の出口をどう構想するか。これも当局の重要な責任だ。

雇用危機―政治があまりに遠い

 不況風が吹きすさぶなかで、年末まで残すところ10日あまり。突然の解雇や派遣切りで職と住まいを追われた人々が、街に放り出されている。

 27日の土曜日から年末年始の休みに入れば、役所や企業などが動き出すのは新年5日の月曜日だ。その間、凍える夜をどう明かし、食いつなげばいいのか。目の前が真っ暗になる思いの人たちも少なくないに違いない。

 今回の不況は、働く人の3人に1人が非正規労働者という、新しい雇用環境にある日本社会を直撃した。企業はこうした人々を調整弁と見て、いとも簡単に切る。不景気があっという間に雇用に大きな影響を及ぼす。そのスピードの速さは、これまで経験したことのないものだ。

 政治の機敏な対応が求められている。だが、国会で繰り広げられている与野党のどたばた劇は、そうした切迫感、危機感があまりに乏しい。

 あきれるのは、民主党など野党3党が出し、参院で可決された緊急の雇用対策法案を、衆院で葬ろうとする首相や与党の姿勢である。

 法案の中身は、職と住まいを失った人への公的な住宅の提供や支援金の支給など、政府が発表している案と重なるものが多い。

 与党は「野党のパフォーマンス」と決めつける。年明けの通常国会で雇用対策などを盛った第2次補正予算案を成立させるのだから、それを待てばいいではないか、と言いたいのだろう。

 確かに、2次補正などを先送りした麻生政権の無策ぶりを印象づけようという、戦術的な狙いが野党側にあるのは間違いない。十分な審議をせずに採決を強行した乱暴さもある。

 それでも、大事なのは対策を実行に移すスピードであり、職を失った人々に早く手当てが届くことだ。いくら案はあっても立法や予算措置が必要なら、年末年始には間に合わない。そんな野党の批判は的を射ている。

 民主党の求めた党首会談を首相が拒んだのは解せない。これだけの緊急事態なのだから、2大政党の党首が話し合い、必要なら法案の修正をしてでも対策を急ぐべきではないのか。民主党の小沢代表も、自ら記者会見して党首会談を呼びかけるほどの真剣さをもっと出せなかったか。

 首相はきのう東京・渋谷のハローワークを視察し、求職者に「これをやりたいという目的意識がないと、雇う方もなかなかその気にならない」と語りかけた。励ましのつもりかもしれないが、求職者の心に本当に響く言葉だっただろうか。国民が首相に期待するのは就職相談員の役割ではあるまい。

 国会の会期切れまでまだ6日ある。首相は休日を返上してでも野党に協力を求め、緊急の雇用対策に必要な立法を実現したらどうか。

PR情報