販売不振と急激な円高で、日本経済をリードしてきた国内自動車メーカーの業績が急速に悪化している。米国に端を発した金融危機が実体経済に及んだ結果といえよう。
ホンダは二〇〇九年三月期連結決算の業績予想を下方修正し下半期(〇八年十月―〇九年三月)の営業損益が約千九百億円の赤字に転落すると発表した。建設中の新工場の稼働開始を延期し、減産も拡大する。
日産自動車は、来年一月以降の減産台数を拡大し、国内の工場の派遣社員などを削減し、来年三月末までにゼロとする。
トヨタ自動車も先月初旬に発表した〇九年三月期連結決算の業績予想で営業利益を約一兆円減額したが、下半期には再び下方修正し、営業赤字を計上する見通しだ。
不況の厳しさを物語るのが、各社のモータースポーツ撤退だ。ホンダが自動車レースの最高峰F1シリーズ撤退を発表したのをはじめ、富士重工業やスズキも世界ラリー選手権(WRC)から撤退する方針だ。企業にゆとりがなくなったことを示していよう。
非正規社員のリストラはもっと深刻だ。自動車はすそ野の広い産業だけに地域社会への影響は大きい。最小限に抑える努力が必要だ。企業は雇用を守る社会的責任があることを忘れてはならない。政府による失業者への手厚い対策が急がれる。
自動車の販売不振は米国の金融危機による世界の市場収縮が原因である。景気減速で米国の自動車ローン融資の審査が厳しくなり、各社のドル箱だった北米市場での販売が悪化した。欧州や日本での販売も低迷し、新興国での市場拡大にもかげりが出ている。そこへ円高と原料高が追い打ちを掛けた。
今回の不況は自動車産業が日本の基幹産業として二十一世紀にも生き残れるかどうかの試金石である。世界経済が曲がり角にあることを認識し、今後の企業戦略を練り直す必要があるだろう。
日本の自動車産業は、戦後の高度成長を支えた景気のけん引車だった。不況の中でもコスト削減や技術開発に努め、競争力をつけ輸出を伸ばしてきた歴史がある。
これからは、エネルギーを浪費せず、環境や人に優しい車が求められる。ハイブリッド車や燃料電池車の開発に力を入れねばならない。技術力を高めるためには国の支援も必要だろう。危機を飛躍のステップとしなければならない。
米連邦準備制度理事会(FRB)がついに、事実上のゼロ金利政策への移行に踏み切った。合わせて市場への資金供給量を高水準に維持する量的緩和策の導入も表明した。
主要な政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、現行の年1・0%から年0―0・25%にまで引き下げる異例の決定だ。事実上のゼロ金利は、米国の金融政策史上初めてである。
FRBの決断は、世界が同時不況の様相を強める中、米国の深刻な景気悪化を食い止め、金融市場の安定に積極的に取り組もうという果敢な意志の表れといえよう。と同時に「利用可能なあらゆる手段を用いる」と強調した声明からは強い危機感もにじむ。
量的緩和策としては、政府機関債や住宅ローン担保証券、企業が発行するコマーシャル・ペーパーの大量購入などを実施するほか、長期国債買い入れの検討も表明している。市場への資金の流れを阻害している目詰まりを解消するのが狙いだ。
米国の実体経済は、九月の証券大手リーマン・ブラザーズの経営破たん以降、急速に冷え込んでいる。十ー十二月期の実質経済成長率は大幅なマイナスが確実視され、景気悪化は大恐慌以来といわれる厳しさだ。
FRBは今回、非常事態克服へ政策を総動員した。それでもデフレ不況から脱却し、景気浮揚につなげられるかどうかは不透明だ。頼みの綱は、来年一月発足のオバマ次期政権が打ち出す大規模な財政出動を伴う景気対策になるのではないか。
米国の利下げで日米の政策金利は、約十六年ぶりに逆転した。円高の加速は日本の輸出企業に打撃を与え、景気の一層の減速要因にもなろう。日銀の的確な政策判断が求められる。
(2008年12月19日掲載)