【ソウル=水沼啓子】北朝鮮の国家安全保衛部が金正日総書記を標的にしたテロ未遂事件を摘発し、韓国の情報機関が関与していると発表したことについて、韓国統一省報道官は19日、記者会見で「(発表に)どんな意味があるのか、事実なのかについて、内容をよく知らないので答えられない」と述べるにとどめた。韓国政府としては静観する構えとみられる。李明博政権発足後、北朝鮮は韓国への非難を強めているが、今回の発表は韓国だけでなく、対北朝鮮住民への警告も狙ったとみられる。
韓国の聯合ニュースによると、過去10年間で国家安全保衛部が、韓国情報機関の対北スパイ活動を名指しで非難したことは1度もなく、極めて異例だという。保衛部は昨年9月にも、外国情報機関の情報活動を非難したことがある。しかし、このときは具体的な国名を明らかにしなかった。今回は韓国の情報機関である「国家情報院」の名を挙げて非難しており、韓国に対する敵対的姿勢をより明確に示した形だ。
これについて外交安保研究院の尹徳敏教授は「南北関係悪化の原因は韓国側にあるということを示すためだ。わざと南北関係を悪化させ、オバマ次期米政権がどんな反応を見せるかを試しているのかもしれない」と分析した。
また、金正日総書記の身辺の安全にかかわる情報を、北朝鮮が発表するのも極めてまれだ。高有煥東国大学北朝鮮学科教授は「こうした発表は、これまでなかったと思う。(金総書記を指す)首脳部という言葉が頻繁に出てくるのも珍しい。絶対的権威を持つ金正日に対する脅威は、北朝鮮にとっては大変な問題だ。韓国に対して強い警告を発したものだ」と話した。
北朝鮮は現在、体制批判を記した宣伝ビラが韓国から大量に送られている問題や海外から発信される対北ラジオ放送などに対して敏感に反応しており、住民への取り締まりも強化しているという。食糧難や経済難も続いており、社会統制を強める意図もうかがえる。
保衛部の発表の中にも「反共和国謀略放送」とか、「対北ビラまき運動」「地下教会」などの言葉が登場する。脱北者で国家安保戦略研究所の金光進研究員は、「テロ未遂事件は恐らく事実ではない。事件をでっちあげてまで発表した北の意図は2つある。1つは韓国に対する圧迫を強めることであり、もう1つは北朝鮮内の統制を強化するためだ」と指摘した。
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