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2008年12月19日

◎雇用法案で対立 けんかしている暇などない

 民主党など野党三党が提出した雇用対策四法案をめぐって与野党が激しく対立している 。双方の非難合戦をみていると、急激な景気悪化による「雇用危機」を政争の具としている印象が否めない。急に職を失い、住まいまで追われた人たちの身になれば、政争に血道をあげている暇などないはずである。

 非正規社員が労働者全体の三分の一を占める就業構造の変化と相まって、期間雇用者や 派遣社員を中心にした失業者の増加ぶりは、かつてない苛烈さである。従来の雇用対策というよりも、深刻な社会不安に対する政治の危機管理能力が試されているのだと認識して迅速に対応してもらいたい。

 野党の雇用法案は、合理的理由のない採用内定取り消しを無効としたり、雇用保険に加 入していない非正規労働者も雇用調整助成金の対象にすることなどを求めている。これに対して政府・与党は先に、雇用調整助成金の特例措置や派遣労働者の正社員化支援金支給、雇用創出基金設立など二兆円規模の追加雇用対策を決めており、野党法案は政府の対策とほとんど同じだと反論している。

 確かに非正規社員らの雇用維持や再就職支援などで重複する施策が少なくない。しかし 、政府の主要な対策の裏付けとなる予算措置は年明けの通常国会に先送りされており、肝心のスピードに欠けていると批判されても仕方がない。政府・与党は対策実施のため今年度予算の予備費を活用することも検討しているが、第二次補正予算を組まずとも可能な財政措置を即座に実行してほしい。

 民主党は参院厚労委で法案の即日採決に踏み切った。この国会対応に「民主主義のルー ルに反する」との批判が野党側からも出たのは当然であり、「政府の無策ぶり」をあぶり出そうという政治的な思惑が透けて見える。

 与党はこうした民主党の動きに強く反発しており、衆院で廃案になるとみられるが、年 明けの通常国会でまた延々と抗争を続けるのでは困る。ここは対立ではなく、実効性ある雇用対策を速やかに実施できるよう真摯に協議することを与野党に求めたい。

◎病院の時間外料金 「最後の砦」守るためなら

 症状が比較的軽いにもかかわらず夜間や休日に救急受診する患者が多いことを受け、石 井隆一富山県知事が県立中央病院で軽症の時間外患者に対する割増料金の導入を検討する考えを示した。石川県立中央病院でも、そうした話こそまだ出てはいないものの、状況は同じという。両病院は、症状が重篤で緊急の処置を要する患者にとっての「最後の砦」である第三次救急医療機関に位置付けられている。軽症患者の安易な来院が、勤務医らの負担となって本来の機能を脅かしているとすれば問題であり、早急な対応が必要であろう。

 石川県立中央病院では近年、時間外に来院する患者の九割が軽症という状況が続いてい る。富山県でも、昨年度中に県立中央病院救命救急センターが受け入れた患者のうち八割近くは入院の必要がなかった。単に「平日の昼間は仕事が忙しい」との理由で時間外に来院する患者もいるそうだ。

 まずは、第三次救急医療機関の本来の役割を県民にあらためて説明し、「コンビニ感覚 」の受診を控えるよう呼び掛けたうえで、それでも改善できなければ、割増料金もやむを得まい。

 富山県の調べによると、全国に三十カ所ある病床数五百床以上の都道府県立病院では、 時間外の割増料金を設定しているところはまだないというが、市立病院や大学病院などでは既に例がある。今年四月から割増料金の徴収を始めた徳島赤十字病院では、時間外の患者が顕著に減少しており、同病院は軽症患者の受診を抑制する効果があったとみている。県立病院でも、導入の目的をきちんと周知すれば、県民の理解は得られるのではないか。

 救急医療の最前線を支えるスタッフの負担がこれ以上増え続ければ、最悪の場合は離職 なども招きかねない。石川、富山県では両県立中央病院以外に、金大附属、金沢医科大、公立能登総合、厚生連高岡の四病院が第三次救急医療機関になっている。これらの病院でも必要があれば対策を練ってもらいたい。「砦」が崩壊してからでは遅いのである。


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