師走の日本列島に雇用破壊の嵐が吹き荒れている。多くの派遣社員や期間従業員が契約を突然打ち切られ、仕事を失っている。職場ばかりか、住む所までも奪われ、寒空に放り出されていく。自動車メーカーをはじめ、日本経済をけん引してきた大企業が一斉に人員削減に走る姿はかつてなかった異様な光景だ。
日産自動車がすべての派遣社員の契約を来年3月末までに打ち切ると発表した。トヨタ自動車やホンダをはじめ多くの自動車メーカーなども大幅な人員削減を打ち出し、社会不安が広がっている。非正規社員から始まったリストラの波は正社員にまで及び始めた。すでに系列や下請けに波及しており、どこまで拡大するかは予断を許さない。
「暮らしていけない」「次の仕事がない」。こうした失業者の悲痛な声が聞こえない政治家はいないはずだ。暮らしの糧としてきた仕事を会社の都合で打ち切られた人たちを救済するのは政治の仕事であるのに、動きは鈍い。「こんな時に政治は何をやっているのか」。多くの人が怒り、そして悲嘆にくれている。
参院厚生労働委員会では18日、民主、社民、国民新の野党3党が共同提出した雇用対策関連法案が可決された。雇用対策を盛り込んだ2次補正予算案を来年の通常国会に出すことを決めている自民、公明党は「(法案の中身は)すべて政府がやろうとしている。民主党のアリバイ作りだ」などとして採決に反対した。相も変わらぬ光景だが、これを見せられる国民はたまったものではない。
野党3党案は与党案と重複した内容もある。国会の会期は残り少ないが、必要なのは早急に雇用対策で合意を形成して実行に移すことだ。与野党の肩には失業者の暮らしがかかっている。直ちに議論を始め、法案の成立を図ってもらいたい。生活ができないという失業者への生活支援金貸与や住宅対策はすぐにでも行うべきだ。雇用対策を来年の通常国会に先送りにしてはならない。
当面の雇用対策に加え、労働者派遣法を抜本的に見直すことも緊急の課題だ。今回、人員削減が激しく行われているのは主に製造業だ。派遣法改正によって、04年に製造業派遣が解禁されて以降、もの作りの現場で正社員から派遣への切り替えが進んだ。しかし、不況となれば非正規社員は真っ先に解約され、ポイと捨てられた。非正規社員は「使い捨て」労働者だったことが、だれの目にも明らかになった。
製造業派遣を再び禁止すべきだという意見も強くなっている。現在、国会には日雇い派遣を原則禁止とする派遣法改正案が提出されているが、これでは不十分だ。製造業派遣の禁止や登録型派遣の是非をも含めて、派遣法を全面的に見直す時がきている。
毎日新聞 2008年12月19日 東京朝刊