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社説

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イラク撤収―多彩な外交への転機に

 イラクで活動していた航空自衛隊の輸送機が日本への帰路につき、5年間に及んだ自衛隊派遣が終了した。

 派遣すべきか否か、国論は二分されたなか、イラク戦争を支持する小泉首相の強引ともいえる決断で決行された。炎熱の地で、自衛隊員たちは復興支援や輸送活動に励んだ。

 輸送機が危険を察知し、回避行動をとったこともしばしばだった。陸上自衛隊の車両のそばで路肩爆弾が破裂したこともあった。隊員に1人の犠牲も出さなかったのは本当に幸いだった。

 独仏などは参加せず、スペインやイタリアが政権交代で部隊を撤収させたにもかかわらず、自衛隊の活動をここまで続けたことが、政府にとっては何よりの成果ということなのだろう。

 だが、この機に考えたい。

 9・11テロに始まり、アフガニスタン戦争、イラク戦争と続いたこの7年余、日本はひたすら米国に寄り添い、付き従ってきた。イラクの自衛隊はそんな単線的な外交の象徴でもあった。

 戦争の結果はさんざんだった。開戦の大義だった大量破壊兵器は存在せず、独裁者を打倒した後のイラクでは暴力が吹き荒れた。「テロとの戦い」のはずが、逆にテロを勢いづけ、拡散させてしまった。

 小泉政権時代の首相の諮問機関である「対外関係タスクフォース」は、イラク攻撃前の02年の報告書で「米国は反対意見や異なる価値体系に対する寛容の精神が弱まりつつある。そのために米外交の道義性が弱まる可能性もある」と指摘した。その懸念は、残念ながら当たってしまった。

 当時の日本政府や与党首脳はこの事実を直視せず、口をつぐんだままだ。

 戦後の日本外交はしばしば「対米追随」と形容される。だが、これほど単色だったことも珍しい。

 小泉政権に先立つ90年代をみても、橋本政権や小渕政権は、中国や韓国などの隣国はもとより、アジア諸国、中東、ロシアなどとも活発な外交を展開していた。そこには日米同盟を基軸としつつも、多彩な外交で国益を増大させようという柔軟な発想があった。

 今、小泉政権時代に破壊された近隣外交は修復されつつあり、日中韓首脳会議も定例化された。単独行動主義と呼ばれたブッシュ政権が終わり、国際協調主義を掲げるオバマ政権もまもなく船出する。

 これは日本外交に多彩さを取り戻すチャンスだ。経済危機や環境など世界的な課題に積極的な役割を果たす。アフガン、イラクの復興や安定に日本ならではの役立ち方もあろう。国連平和維持活動への参加も、日米同盟の文脈だけにとらわれず再活性化させる。

 自衛隊の撤収を、米国を上目遣いでうかがいながらの単線的な外交から脱却する出発点にしたいものだ。

中国開放30年―待ったなしの政治改革

 中国共産党が改革開放政策にかじを切ったのは、78年12月18日から22日に開いた第11期中央委員会第3回全体会議(3中全会)でのことだった。

 それから30年。国内総生産(GDP)は70倍近くに増え、今年はドイツを抜いて世界3位になるのが確実だ。

 「改革開放を強大な原動力として、様々な事業を推し進め、世界が注目する偉大な成果をあげた」

 胡錦濤国家主席は18日、北京の人民大会堂での30周年記念大会で胸をはった。「中華民族100年の夢」とされた北京五輪も、経済成長抜きではかなわなかったに違いない。中国メディアも30年の成果を内外にアピールする。

 だが、現実はお祭りムードに浸っている余裕はない。米国に端を発した金融危機の津波が13億人の足元を脅かしているからだ。

 輸出は11月、前年同月比で2.2%減った。01年に世界貿易機関(WTO)に加盟してから初めてのことだ。素材や機械の輸入も大幅に減り、将来の輸出減につながりかねない。

 改革開放の最先端を歩んできた広東省などでは輸出企業の閉鎖が相次ぐ。失業した出稼ぎ農民が帰郷を迫られ、社会不安の種が広がっている。

 その状況に、中国当局も手をこまぬいているわけではない。

 54兆円を超える景気刺激策を先月、発表した。今月上旬に開かれた中央経済工作会議では、積極的な財政政策と金融緩和策をとり、内需拡大によって成長を保つことを確認している。

 世界同時不況のさなか、その判断は適切だろう。低い生産性や自然の荒廃、貧困に苦しむ農民の暮らしの向上のためにも内需の拡大が欠かせない。

 国際社会もまた中国の国民生活の底上げによる成長の潜在力に、世界不況脱出の先導役を期待している。

 問題は方針を円滑に実行できるかだ。成長優先策が、むだな投資や環境破壊、事業をめぐる汚職を広げる恐れがある。成長の恩恵が広く国民におよぶような公平な分配システムもまだ確立されていない。

 それもこれも、一党主導で改革開放が進められ、必ずしも幅広い民意をくんできたわけではないからだ。

 そんな現状を憂慮した知識人らが世界人権宣言採択60周年にあたる12月10日、一党独裁の放棄などを求めた「2008年憲章」をネット上で発表した。著名な作家や人権活動家らの署名が内外に広がっている。

 胡錦濤体制が目指す、調和のとれた「和諧(わかい)社会」を実現するためにも、政治面での改革はなくてはならない。

 「改革開放は、辛亥革命、社会主義革命に続く第三の偉大な革命だ」。胡氏は30周年記念大会でこう訴えた。しかし、政治改革で成果がなければ、革命いまだ成らずである。

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