人工妊娠中絶をした件数が07年度、過去最少を更新し25万6672件だったことが、厚生労働省が17日発表した保健・衛生行政業務報告でわかった。中絶件数は減少傾向が続いてきたが、前年度と比べた減少率も7.1%と過去5年で最も大きかった。
女性1千人あたりで中絶した件数を示す人工妊娠中絶実施率(15〜49歳)は9.3件で、中絶件数とともに統計をまとめ始めた1955(昭和30)年以降で最も少なかった。55年当時の中絶件数は今回の4倍以上の117万143件、実施率も5倍以上の50.2件だった。
厚労省人口動態・保健統計課は、ピルの普及などで避妊行動の変化が影響している、と分析。「性交頻度の低下を指摘する厚労省研究班の報告書もある」としている。
めでたく殺人件数が戦後最低を記録した昨今ですが、聞くところによると妊娠中絶件数もまた、過去最少を記録したそうです。殺人件数の最低記録更新は喜ばしいニュースですが(ただし治安悪化を信じたい人の方が多いようで、話題にはなりませんでしたね)、妊娠中絶の件数はどうなのでしょうか? 一概に多ければいいと言うものでもなさそうですが、かといって少なければいいと言うものでもないでしょうし。
キリスト教原理主義が幅を利かせるアメリカでは、人工妊娠中絶を認めるか否か、これが時には大統領選の行方さえ左右するほどの大きな問題です。政治力の面では共和党支持層からも少なからぬ疑問符を投げかけられるペイリン氏ですが、妊娠中絶を認めない立場を鮮明にしていること、それだけで支持を勝ち得ている部分もあるようです。ある種の人にとっては、そこが譲れないポイントなのですね。日本だったら「中国や韓国を蔑視しているか」辺りが、それに代わるでしょうか。
近年の日本では妊娠中絶の是非が、政治の行方を左右するほどの大きな問題になったことはないかもしれません。ただ意識としてはどうなのでしょうか? 妊娠中絶件数が過去最少を記録した、これを好ましいと思うのか好ましくないと思うのか、その意識調査などがあるようですと、色々と考えるヒントになりますね。
アメリカの場合、妊娠中絶に反対するのは主として宗教的な見地から、逆に肯定するのは女性(だけでもないのでしょうけれど)の選択する権利を擁護する立場からです。概観としては前者が保守、後者がリベラルでもあります。しかるに日本の場合、保守である体制側が優生学的な発想から妊娠中絶に寛容だったところもあり、その理由は異なれども保守とリベラルの選択が結果的に一致する部分も少なくなかったはずです。そのはずですが、中絶件数は著しく低下、この原因はどこにあるのでしょう?
いかにも避妊に非協力的なのではないかと思われる子だくさんの弁護士が地域の首長になったりする昨今ですが、価値観の変遷も影響しているような気がします。妊娠中絶にたいする負のイメージが、昔年に比べて強まっているのではないでしょうか。
そりゃ昔の方が遥かに強姦件数も多かったので望まぬ妊娠も多かったかも知れませんし、何かと少子化が強調される昨今は子作りの母数も少なめなのかも知れません。しかし保守的な人々の強調するところでは現代の性は非常に乱れているそうで、そうであるならば妊娠する機会、それも予定外の妊娠をする機会も多そうなものです。しかし妊娠中絶の件数は激減、50年前の5分の一にすら届きません。避妊器具の進歩も影響しているでしょうけれど(人工妊娠中絶の環境も進歩しているはずですが)、避妊具を使わない人の割合が日本はかなり高めとも聞きますし(先進国では唯一、エイズ感染者が増加しているようで)、継続する減少傾向を説明するにはもう一つ、何かが必要な気がします。
元より美しい国では子殺し、間引きが当たり前のように行われてきました。しかるに戦後教育の影響かどうかは知りませんが、いつの間にか「子供を大事に」が少なくとも建前としては日本中を埋め尽くしたわけです。それが高じて、妊娠中絶に対する「悪」のイメージも強まり、「プロ・チョイス」から「プロ・ライフ」へ、男女ともに価値観が移行し続けているのかも知れません。
この文言は失礼ではありませんか?
強制で出産してるという話でも聞いたことありますか?
だったらどうなんだい? え?
>カトリック原理主義が幅を利かせるアメリカ
とされていますが、やはりあくまでもアメリカの主流はプロテスタントであり、その国民の多数を占めるプロテスタントの中の保守派の人たち(および少数のカトリックの保守派の人たち)が、妊娠中絶に強固に反対している、ということではないかと思います。そういえばジョン・ケリーはカトリックでありながら中絶容認派でしたね。まあ、どうでもいい話ですけど。
この世の中にあって、正直貴重なブログだと思い、愛読させていただいております。
頑張ってください。
さておき自分の感覚でも(それが危険なことは承知の上ですが)、人工妊娠中絶が減る要素ってあまりないように思います。
少子化対策が叫ばれる昨今、「病院は中絶より産むことを選択するよう父母を誘導することが望ましい」なんて通達が回ってて、中絶率が高いと補助金が…でも税務署に提出する書類と整合性を取ってる訳でも無さそうだし、じゃ中絶数は過小申告で…
なんてなのは、あまりにステレオタイプな邪推ですかね、やっぱり。
セックスレスカップルが増加かなあと考えます。
あとうろ覚えですがだいぶ前に避妊具の売り上げも落ちているとびっくりした記憶があります。(はっきりせずに勘違いだったかも)
結婚しても殆どが共働きとセックスレスかもしれません。
まぁブッシュの票田となっている層が念頭に浮かんだのでカトリックと書きましたが、キリスト教〜と書いた方が補足する範囲は適切かも知れませんね。
>marrborさん
ナチス政権下のドイツでも人口を増やすべく、「アーリア人の子であれば私生児でも積極的に育てよう」と、リベラル層とは対極にある理由から婚外子の権利保護が図られたこともあったようですが、日本も似たような発想を継いでいるところはありそうですね。「少子化」を危機として強調する現代も、そのような発想は生き延びていて、それが「中絶より産むことを選択するよう父母を誘導することが望ましい」となるのかもしれません。
>tatu99さん
セックスレスも一因ではあるでしょうけれど、それだけで中絶の割合を5分の1以下にまで減らすことは出来ないでしょう。仰るように避妊具の売れ行きは下降線で、避妊意識が高まっているとは考えにくい中で急激に中絶が減少するのは、価値観の保守化を考慮すべきですね。そこにはセックスを後ろめたいものと捉える意識も含まれますが。
あと、他によく見かける「キレどころ」と言えば…軍隊でしょうかね?
アメリカと違って明白な形こそ取っていませんが、日本も宗教的な考え方をするところが少ないようにも感じますね。その信仰の対象が具体的な名前のある神ではなく、「国体」だったり、あるいは軍隊だったり…… その手の人にとって軍隊は神聖不可侵のようですから。そして橋下ですが、さしずめ熱烈な信者を抱えるカルトの教祖のようなものでしょうか。
実際に、私の知人や御近所などでも、結婚して何年も経ち、子供が欲しくないわけではないのに、出来ないというカップルが結構います。中には懸命に不妊治療をしている人もいるようなのですが。
もちろん、このことが中絶件数の低下にどこまで関わっているかはわかりませんが。
>中絶件数は著しく低下、この原因はどこにあるのでしょう?
>継続する減少傾向を説明するにはもう一つ、何かが必要な気がします。
これは私の仮説ですが、きわどい表現で恐縮ですが、オーラルセックスの普及が背景にあるのではないでしょうか。オーラルセックスでは妊娠はしませんし、それでいてエイズ感染者の増加とも矛盾しませんので。
う〜ん、環境ホルモンですか。一頃は盛んに危機が伝えられていましたが、昨今は聞かなくなりましたね。ただ昔から不妊に悩む人はいて、今でこそ不妊治療などあるものの、かつては不妊が理由で離婚なども多かったわけで、それが現代ではどうなんでしょうね。
>JFさん
どうなんですかねぇ、オーラルセックス自体、普及度に関する統計を見たことがあるわけではありませんが、今より遥かに中絶の多かった時代から存在した、というより江戸時代の文献に載っているわけですから。あぁ、それよりオーラルセックスだけで終わっちゃうんでしょうか。男としてはそれでも良いところはありますが。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/saisin/20070406ik0a.htm
経口妊娠中絶薬の影響もあるかもしれません。こちらは2000年頃までに、主だったEU加盟国、米国、中国が認可しました。日本では承認されないまま個人輸入が行われていましたが、2004年には大量出血を引き起こすなど重篤な副作用が報告されて、厚生労働省は医師の処方のない個人輸入を禁止しました。しかし海外サイトまでは・・・。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/10/h1025-5.html
これらの薬がどれくらいの影響を及ぼしているかは想像がつきませんが、どちらも性感染症対策にはなりませんから、エイズの増加と関連があるような気もします。法律の範疇の人工妊娠中絶の統計ではもはや実態は掴めないのかもしれませんね。
日本はピルの普及が非常に立ち後れているところもありますね。欧米ではピルの使用は女性の権利とも絡めて考えられるところがあるようですが、日本のフェミニズムは性的な面では非常に抑圧的な方向に偏りがちで、ピルの認可を頑なに渋る厚労省の対応にも極めて鈍感なイメージもあります。引用元の記事ではピルの普及〜なんて書かれていますが、個人輸入でもしないと手に入らないレベルですから、そこはどうなんでしょうか?