日本経団連が、二〇〇九年春闘に向けた経営側の交渉指針となる「経営労働政策委員会報告」をまとめた。賃上げ抑制の姿勢に加え、雇用安定も「努力目標」にトーンダウンしており、雇用不安が広がる中、〇九年春闘は労使が全面対決する構図になりそうだ。
経労委報告は、好調な企業業績をもとに「賃上げ容認」方針を打ち出した昨年とは様変わりの内容となった。米国発の金融危機に端を発した景気の急激な冷え込みが背景にあるのは言うまでもあるまい。
景気失速で深刻化しているのが雇用問題だ。業績悪化を受け、自動車、電機業界を中心に大規模な非正規従業員の削減が続いており、正社員の削減に踏み切る企業も出ている。
報告は、雇用の安定について「努力することが求められる」との消極的な表現にとどめ、「最優先とする」とした当初の方針を後退させた。雇用確保が企業の努力だけでは難しいとする経営側の苦境の表れともいえようが、具体的なメッセージは伝わってこない。
これに対し、連合は「賃上げこそ最大の景気対策」として、消費者物価の上昇を受けて八年ぶりにベースアップ要求する方針だ。欧米の景気の落ち込みで、日本経済は従来の輸出主導での景気浮揚は望めない状況にある。個人消費拡大など内需主導の景気回復策に頼らざるを得ないのは確かだろう。
報告は、雇用確保と賃上げ増の両立を目指す労働側との対決色を強めた格好だが、失業者が急増する事態になれば景気はますます落ち込むばかりだ。労使一丸で最優先で取り組むべきは、やはり雇用の安定だろう。
日銀が発表した十二月の企業短期経済観測調査(短観)は、景気が一九七〇年代の石油危機並みの速さで悪化し、底が見えない状況に陥っていることを示した。業種や規模を問わず総崩れの状態となっている。
企業は国内外の環境の激変に対応するため、生産休止や人員削減などに乗り出しているが、実体経済の動きに追いつけていないのが実情だ。今や雇用者の三人に一人が非正規従業員といわれる。厚生労働省によると、来年三月末までに非正規労働者約三万人が職を失うとみられており、救済策が喫緊の課題となっている。
雇用問題の解決には官民の協力が欠かせまい。企業の取り組み強化とともに、経済界と連携した政府のきめ細かい雇用対策や有効な経済政策が急務だ。
民法上の成人年齢を二十歳から十八歳に引き下げる法改正を検討している法制審議会の部会が中間報告を公表した。「十八歳」を成人とすることについて、意見がまとまらなかったことから、是非の判断を見送った。問題の難しさをあらためて浮き彫りにしたといえよう。
二〇〇七年五月に成立した憲法改正のための国民投票法が、十八歳以上に投票権を認めたことを受け、今年二月に法相が法制審に諮問した。
中間報告は、民法の成人年齢を引き下げた場合、契約、結婚、親権などをめぐり、国民生活にどのような影響が出るかを分析し、賛否双方の立場から長所、短所を列挙した。例えば、引き下げの積極論者は若者の自立を促すとしたが、消極論者は若者が悪質業者のターゲットになる恐れがあると指摘した。
そのうえで、引き下げに必要な施策として、事業者による取引の勧誘を制限するなどの保護施策や、若者への消費者関係教育の充実などを盛り込んでいる。両論併記とはいえ、引き下げへの課題まで提起しており、方向付けを示唆しているようだ。
民法の「二十歳成人」を根拠に線引きした法律などは三百を超える。成人年齢の引き下げは、投票や結婚、飲酒、喫煙など日常生活への影響もあるだけに、賛否を含めさまざまな意見が出るのは当然だろう。
内閣府が今年七月に全国五千人を対象に実施した世論調査では、69・4%が引き下げに反対し、賛成は26・7%にとどまった。国民の「十八歳成人」への抵抗感が強いことが示された。
部会は最終報告を来年に予定しているが、中間報告は議論を深めるたたき台となろう。広く国民を巻き込み、若者の将来を見据えた議論を、さらに重ねていくことが必要だ。
(2008年12月18日掲載)