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  SUNGEKIYA-At random

 

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   大変遅くなりましたが冬コミ新刊情報になります。

 

  当サイトではお馴染みの「もしセイバーが現界していたら?」という設定で、寸劇を各月ごと12本を作りました。

  「また鞘剣かよ!」と書いている本人も思わずにはいられないのですが、好きなんだよなぁ……あの二人。

  お目汚しにならない程度に好き勝手やった内容ですので、そういうのが好きな方は是非。

 

  また、既刊の「乙女画報セイバー」「MTSY vol.0」「シスター/セイバー・オルタネイティヴ」も余裕がありましたら

  搬入いたしますので、この機会に是非ともお手にとって頂ければと思います。

 

  ご意見ご感想ご指摘BBS(長文)、一行感想板(一言)

 

2008/12/18


寸劇:156

 冷たい冬の風が頬を霞める。
 冬木市新都は巨大なオフィスビルと開けた広場が隣合っており、それもあってこの時期の凍て付いたビル風は厄介この上ない。駅前にやってきた者たちを例外なく困らせているのだが、同時に風除けとして大型ショッピングモールのヴェルデが重宝されるという利点も有している。
 外で寒さに当てられながら買い物をするよりも、空調のかかった屋内の方が断然過ごしやすい。無論、それを見越してヴェルデが作られたわけではないが、偶然にしては随分とおあつらえ向きな立地であるのは確かだった。
「うおっ、寒ー……」
「……遠坂。女の子の台詞で、うおっ、は無いと思うぞ、俺」
「衛宮くんって女の子に幻想抱くタイプなのねー」
「まあ、お前に関してはもう抱いた幻想も吹っ飛ばされたけれどな」
 ……随分と言うようになったじゃない。
 こめかみが少し引き攣る感覚を得る凛だったが、対等な関係になっているのだと思えば、彼の軽口も許せてくるから不思議だ。
 ヴェルデでの買い物を後に。お互い、吹き荒ぶ空っ風から身を守るように深くコートを羽織り、肩を並べて二人は帰路についている。風に士郎のマフラーがはためくのを、私は手袋を嵌めた手で直す。ヴェルデが暖かいからとタカを括っていたが、マフラーくらいは持ってくるべきだったか。
 片手に荷物を持った士郎が、こちらの荷物も掴もうとしているのを制しつつ、
「衛宮くん、どっかでお茶でも飲んでく?」
「疲れたのか、遠坂? やっぱ荷物――」
「はいはいそれはいいから……。単にちょっと寒くなっただけよ」
 と、一端言葉を切って。
 口元を笑みの形にした、猫を思わせるジト目になり。
「それとも衛宮くんが私をあっためてくれるのかしら?」
「うぇっ!?」
「……何よそのリアクション。失礼な」
「完全からかう顔だったろーに」
 言い返すも士郎の顔は真っ赤になっている。それは冬の冷えた風のせいではないだろう。
 そして言い返された凛もまんざらではない顔。果たして士郎は彼女のそれに気付いているのだろうか。気付いていないだろうな、と凛は思うのだが、これが意外と見られていたりするのだ。この朴念仁は妙なトコで鋭い節がある。
 胸に浮かんだ照れを隠すように凛は視線を隣から遠くへ。
 とりあえず目に付いたものを指差しながら、
「あっ、あそことかどうかしら?」
「寒い言ってた人間が広間のど真ん中にあるオープンカフェを指すなよオイ」
「――どうせ屋内の店は軒並み満室でしょ、この時間だと。それにテイクアウトすればいいだけじゃない」
 凛はしれっと反論。
 どのみち外で飲むことには変わりないのだが、やられっぱなしは遠坂凛の性分では無い。そんな自分自身のことを「素直じゃないなあ」とは思うものの、それじゃあ「素直」だったら自分らしいというわけでも無いと思う。
 ……けれどまあ。
「意識して素直になったら、それってもう素直って言えないわよねー」
「ん、何か言ったか?」
「ううん。単なる独り言だから気にしないで」
 追求が無いのは、気遣いの出来る士郎の美徳だと彼女は思う。
 オープンカフェは持ち帰り目当ての客が他にもいて、短い列を作っている。誰一人として備え付けのテーブルには座ろうとしない。客足は悪い訳ではないのに、店そのものは閑散とした印象があって奇妙な光景だった。
 適当にミルクティーとコーヒーを買い、二人は店を後にする。
 吐き出す真っ白な息が掻き消えてしまうほど風は強い。飲み物に口をつけて暖を取るが、それも付け焼刃程度がいいところ。
 顔や首元に感じる寒さは、いつの間にか小さな痛みを持続させたような刺激に変わっていた。それは例年よりも勢いを増した寒波のせいばかりではない。油断した。こんな寒いのだったら自分もマフラーを持ってくるべきだった。
 コートのデザインに合わないから、という理由で放棄した半日ほど前の自分を凛は恨む。
 ……さっさとバスに乗ろう。士郎も寒がってるだろうし。
 自分の考えを確認しようと凛が視線を彼の顔へと上げた時だ。
「―――?」
 ふと彼が小首をかしげ、
「ほら、使えよ遠坂」
「あ……」
 思い至ったような顔で、自らの首に巻いていたマフラーをほどき、凛の首に巻いてやった。首筋に刺さる細々とした痛みが、ゆるやかに和らいでいく。
 よし、と短く呟いて、士郎は再び歩き出してしまう。その横顔はどこか満足げ。
「…………」
 一瞬の間に、さも当たり前のようにやってのけられたので、礼を告げるタイミングすらも逸してしまった。感謝を求めてそうしてくれた訳ではないということなのだろう。そういう少年なのだ、衛宮士郎は。
 ……そう、本っ当ーにこういうことをサラッとやってくるヤツなのよね。
 歩きながら。少し乱暴に巻かれたマフラーに手を当てて、凛は首筋を包む温かさをゆっくりと実感する。このぬくもりはそっくりそのまま彼の優しさなのだろう、とは思うのだが――
「腑に落ちない」
「え?」
「士郎、ちょっと首かしなさい。首っ」
「うおっ……お、おい遠さ――うぐぇっ、おま……っ」
 問答無用で襟首を掴んで士郎を引き寄せ、せっかく巻いてもらったマフラーを外してしまい、そのまま彼の首に巻き直してやる。ただし、自分と彼とで半々に。
 一つのマフラーを二人で共有する。
 長さが少し目算より短かったのか、最早二人は肩を並べるというよりも、身体を擦り寄せて歩く構図になってしまう。必然、二人の手は握り合う。
 士郎は突然のことに戸惑いつつ、顔を真っ赤にして凍てつく冬の空に湯気を噴き出している。その一方で凛は照れながらも自分でやったことに満足そうな表情だった。
「――よしっ。さ、帰りましょ。士郎」
「……ん。そうだな」
 照れ隠しなのかどこか口調はぶっきらぼう。
 凛はそんな士郎が可愛くておかしくて仕方がない。
 身体を寄せ合っているからか、踏み出す歩幅はさっきよりもずっと狭い。先ほどまでの急いでいた気持ちは、すっかりどこかへと消え失せてしまっていた。のらりくらりと歩く二人に、ビルから急降下して勢いづいた寒波がその身を打ち付けてくる。
 だが、今はその冷たさが不思議と心地良い。寒空の下、バス停までのほんの少しの距離を、士郎と凛はさらに速度を緩めて歩いてゆく。

 


・自分を蔑ろにする士郎を諌め、ついでに甘える遠坂さん。


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