2008-12-17

雨音がした。
これは柵だ。
超えようと思えば超えられるものを、
何故か私はそこに留まり、まるで檻。
長い腕に包まっていた。
高い鼻から寝息が聞こえる。
背中に爪あとを残したいのに、短く切ってしまった爪をそれでも立てる。
ラベンダーだったはずなのに。
幾度となく射精する男に、私はもう、「好き」という言葉は使わないつもりだった。
雨音が私を縛り付けて、私は帰れない。
男の背中が大きすぎて私には退ける力が足りない。
私に来てもいいのよ。
でも私はあなたを束縛しようと思わない。
あなたはあなたで自由にしていいのよ。
それなのに、私が迂闊にも放った言葉が男を捕らえてしまうのだろう。
狭い部屋の中で雁字搦め。
お願いだから私をそんなふうに好きにならないで。
2008-12-16

子宮内膜症という病気にかかったおかげでピルを飲むはめになっていた。
9月からあれやこれやといろいろあり過ぎたせいで、
食欲は落ちていたのに体重が20キロも増えた。
そこから頑張って5キロ落としたところでピル。
何をしたところで痩せない。
漢方薬療法があるということで、そちらに切り替えたら
辛うじて生理であろうとわかるだけである。
洋服が夏にはSサイズだったのに、今ではLサイズである。
コルセットが大好きで、締め上げては喜んでいたけれど、
今は怖くてそれが出来ずにいる。
外出を恐れては駄目だ。
他人の目に晒されることに脅えてはいけない。
正直、自分にとっての彼の立場に名称がなくて困る。
明確に別れたわけでもなく、ただ私の気持ちが冷めてしまった。
私の感情を再燃させようとしているらしいが、どうなのかなあ。
若いころは離れていても気持ちは保たれていたが、
今となるといつの間にか消えている。
かといってベッタリしたいわけではない(負担だ)。
嫌いになったわけでもなく、恋愛感情だけがすっぽりと抜け落ちてしまった。
何だか私如きが彼に申し訳ないような気もする。
ずるずると続いている人、では非道過ぎる。
でも、本当にわからない。
人並み以上の外見を持っているのだから、
私以外の女性も知ってみれば良いと思う。
そうすれば私なんて取るに足りない存在で、
なぜ今まで拘っていたのかという気になるだろう。
本当に、私は取るに足らない。
特に今の私は残りかすのようなものだと思う。
2008-12-13

何が私を熱くさせていたのだろう。
ここに書くことはもう、失われたのかもしれない。
2008-12-04 過去に縛り付けられる者

幾つものしがらみを常に身に纏って生きてきた。
駄目だよ、君の妄執から逃げられない私と、
私への妄執から逃げられない君でうまくいかないよ。
これ以上、君という人間をうんざりさせないでくれ。
後生だ。
---------------------------------
やたらと難しい言葉を使ってみることが詩的だと勘違いしている若い娘を見て、
奇をてらっただけのものに惹かれるその子を見て、
苦笑と共に、振り返り見る我が過去生。
仕事で韓国へ行っていた。
インサドンの路地裏は割りと楽しかった。
私はカオスの中に生じたい。
もはや私を啓発するものは混沌とした街並だけなのかもしれない。
幾つものしがらみが私を縛り付けるけれども、
私はその縄目を潜り抜けて、
ますますしがらみを見つけてくる。
墓穴を掘っては人間模様を楽しんでいるのかもしれない。
たとえ自分が傷ついても、もはや他人を傷つけても。
憶測ばかりの生。
退屈なのだろう。
自分であることに飽きが生じた。
2008-11-28

美しいと思ってしまった。
口付けを拒めなかった。
だからといって、これ以上関係を続けることが出来るのか。
あの顎から首にかけてのラインは美しかった。
黒いロングコートが180cmを超える身長に映えていた。
手すりから身を乗り出した彼を発見したとき、
何かファッション雑誌に掲載された写真の一枚かのように見えた。
拒めども食らいついてくる。
妄執の彼方に私がいる。
現実の私はこれほどまでに冷酷に彼をあしらうというのに、
妄執の理想郷の私は、どれだけ神々しく輝いて、
彼を高みへと導くのだろう。
それは私ではない、現実の私ではない、そう述べても無駄なのだ。
彼が私を見るとき、おそらく私には後光が差しているに違いない。
彫像のように立ち尽くす彼はミケランジェロの手によるものか。
ほんの少し離れたところから、気がつかれないように眺めてみる。
それから私はそっと歩き去る。
2008-11-18 トリスタンとイズー

子供のころは思っていた。
私のことを愛してくれる人がいたならば、
それだけで私は一生をかけてその人を愛するだろう。
私はこの人を一生愛し続けるだろう。
恋愛をするたびに、別れを迎えるたびに思った。
「私には自分でも抱えきれない疾患がある。
それをいつか、あなたは負担に感じるだろう。
だから私はあなたとは付き合えない」
「それを支えていきたいから、君と一緒にいたいんだよ」
……というのは付き合うときの常套句で、
やはり私を負担として別れを宣告する男に、恋の始まりの文句を
突きつけたところで「あの時は本気だった」と去るだけなのだ。
だから私は恋愛を信じない。
恋人を信じない。
何を言われても、それはただ、のぼせ上がっている最中の戯言でしかないのだ。
そして私は恋愛はいつか冷めるものとして、
仮初めの慰みとしての快楽だと捉えるようになっていった。
それで構わないのだ。
誰よりも恋人ほど疑わしき人間はいない。
そして私は自分もそういう行いをすることに慣れていった。
だから君よ、私は平然と見捨てる。
過去に私が恋人からされてきたように、
君を裏切り、君から去る。
私をそこまで求めるのは、ただ単に執着でしかない。
憤りが君を突き動かすだけなのだ。