武雄市民病院は00年2月、国立療養所武雄病院の業務を引き継ぐ形で開院した。同病院が国立嬉野病院(現・嬉野医療センター)への統合対象となったためだ。
武雄病院がなくなれば地域医療が疲弊すると懸念した市は当初、内科、外科、リハビリテーション科に整形外科と小児科を加えた5科の設置を検討。
市は地元の武雄杵島地区医師会と病院存続に向けた交渉をした。当時の市長、石井義彦氏(81)は「時間をかけてずいぶん議論した」と振り返る。「必ずしも利害が一致しなかった」(石井氏)交渉は結局、医師会の要望が受け入れられ、診療科新設は見送られた。
「地域で間に合っている診療科を新たに作る必要はなかった」と同医師会の現会長・古賀義行氏は説明する。一方、古参の市議は「医師会は本音では市民病院開設さえしたくなかったはずだ」と言う。「今回も自分たちの経営がどうなるかしか考えていない」。今もしこりが残る。
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古庄健介氏(70)が旧武雄市長だった当初の計画では、市民病院は05年度からの単年度黒字化を目指すことになっていた。だが診療報酬改定や医師減少に伴う診療数の低下もあり、07年度までに約6億4000万円の赤字が累積した。
全国の多くの公立病院も同じ状況だった。今年9月に診療休止した千葉県の銚子市立総合病院は07年度、市一般会計から交付税約3億5000万円以外に10億円以上を繰り入れた。
市民病院の赤字が市の財政破綻(はたん)を招きかねないと危機感を抱いた樋渡啓祐・前市長(39)は「対岸の火事ではない」と対処を急ぎ、民間移譲を選んだ。樋渡氏は指摘する。「赤字が膨らむ中、どうして古庄氏は経営者として対処しなかったのか」
一方、民間移譲反対派は激しく反論する。ある市議は「民間移譲の話が出る前の07年度上半期は4000万円の黒字で、経営は軌道に乗り始めていた」。古庄氏も「これまで(交付税以外の)一般財源から1円も補てんがなかった」と主張する。
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県によると、大町町以外の8自治体病院は、07年度はすべて赤字。制度が変わり、市財政の健全性を計る指標に病院会計も連結しなければならず、より厳しい目が向けられる。
市と医師会のせめぎあいの中で産声を上げた市民病院の民間移譲改革。
「あわてて進めることはない」とする古庄氏と、「今でも遅すぎるくらいだ」とする樋渡氏の認識の違いは、はっきりしている。
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◆県内の自治体病院の経営状態◆
(07年度)
経常損益 累積欠損金
佐賀 ▲13201 88480
唐津 ▲ 2746 17144
多久 ▲14513 131167
伊万里 ▲ 4680 84749
武雄 ▲ 2409 63899
小城 ▲15817 444
有田 ▲ 473 0
大町 5 45182
太良 ▲13073 51346
※▲はマイナス、単位・万円(千円以下切り捨て)
毎日新聞 2008年12月18日 地方版