09年春闘に対する経営側、労働側の基本方針がまとまった。深刻な世界同時不況下での労使交渉は難航が必至だが、賃上げに加えて非正規社員をはじめ働く人たちの雇用や賃金への不安を解消できるかが大きな課題となる。
労使がすぐに取り組むべき課題は、派遣や期間従業員ら非正規社員の雇用の確保だ。突然、仕事を失って路頭に迷う非正規社員の救済を国だけに任せず、企業の責任で行ってもらいたい。非正規の雇用問題を放置したまま、正社員の賃上げ交渉を行えば、労働運動の存在意義が問われることになろう。
労使の雇用確保への取り組みは一枚岩ではない。日本経団連は来春闘の指針となる「経営労働政策委員会(経労委)報告」を発表したが、雇用確保への熱意がほとんど伝わってこない。「雇用の安定に努力する」と短い記述はあるが、「努力」ではあまりにも弱い。すでに自動車や電機など国内のトップメーカーが先頭を切って人員削減を行い、深刻な雇用危機が加速している。もはや「努力」の段階ではない。
経団連の方針に対して連合は「非正規社員を含むすべての労働者の雇用の安定を徹底させ、積極的な賃上げにより内需喚起を促すべきだ」と反論、「雇用も賃上げも」と主張する。だが、正社員の組合員を中心に組織されている連合は、これまでもそうだったが非正規雇用の問題に全力を投入してこなかった。今回、人員削減を行っている大手メーカー労組の多くも連合に加入しているが、非正規社員の雇用を守る運動が広がっているとは言えない。連合は「雇用を守れ」とラッパを吹くが、企業と直接交渉する加入組合は積極的に動いていないからだ。
非正規社員の解約は正社員にも影響を及ぼす恐れがある。これから始まる春闘交渉の場では非正規も含めた労働者の雇用確保を最重要の課題として協議し、労使で合意すべきだ。
次に賃上げ問題を取り上げたい。連合は8年ぶりにベースアップ要求を復活させる方針だ。労使交渉では物価の上昇分として「1%台半ば」のベアを求めていく。一方、経団連は「企業の減益傾向が強まる中、ベアは困難と判断する企業は多い」とベアに消極的だ。
企業業績にバラつきがあり、雇用や景気の見通しも不透明なこともあり、来春闘ではすべての企業で賃上げを行うことは難しいだろう。賃上げを見送って雇用を優先する企業もあるはずだ。しかし、業績のいい企業にまで横並びで賃上げ自粛の輪が広がることは決して好ましいことではない。景気回復につなげるためにも、賃上げによって内需を拡大することが必要だからだ。
「雇用か賃上げか」ではなく「雇用も賃上げも」という前向きの発想で労使には取り組んでもらいたい。
毎日新聞 2008年12月18日 東京朝刊