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【政治】

イラク空自行動基準 不時着時の応戦想定

2008年12月17日 07時09分

 イラク復興支援特別措置法に基づき、イラクで空輸活動を行った航空自衛隊がC130輸送機の不時着を想定して、武器使用の手順を非公開の「部隊行動基準(ROE)」で定めていたことが十六日、分かった。「非戦闘地域」で活動していたはずの自衛隊機が、撃墜されて飛行不能に陥る事態まで想定していたことになり、法律と実際の活動との隔たりが明確になった。 

 ROEはイラク派遣前の二〇〇三年十一月に定められた。C130の不時着後、「機体を包囲された場合」と「略奪にあった場合」に分けて規定した。

 不時着した場合、包囲されているだけでは武器使用できず、隊員自身や機体に危険が及び、包囲を突破するしかない場合は武器使用できると規定。不時着して略奪にあった場合、相手が武器を持っていなくても危険が及ぶと判断すれば武器使用できるとしている。

 応戦しても機体を守り切れない場合は、機体を放棄して退避すると規定した。

 イラク特措法は「非戦闘地域」での活動を定め、政府はイラク空輸について「飛行経路と空港は非戦闘地域」と説明。だが、ROEは攻撃を受けて飛行不能に陥り、不時着した後、襲撃を受けることまで想定している。

 実際のイラク空輸では、首都バグダッド上空で携帯ミサイルに狙われていることを示す警報が機内に鳴り響くことが何度もあった。

 吉田正元航空幕僚長は退官後、本紙の取材に「地図で示せるならともかく、どこが戦闘地域か否かの判断は飛行機乗りの世界になじまない」と話し、政府説明との食い違いが浮上していた。

<解説>武力行使歯止め低く

 イラク空輸活動中に不時着したC130輸送機を守るため、航空自衛隊が定めた部隊行動基準(ROE)。「人」ではなく、「物」を守る武器使用の手続きが判明したのは初めてだ。憲法九条で禁じた武力行使を避ける歯止めは、限りなく小さくなっている。

 海外活動を命じられた自衛隊が武器使用するのは、隊員自身や同僚など「人」を守るためだった。

 だが、イラク特措法では自衛隊法九五条「武器等の防護のための武器の使用」の規定が適用されている。武器等の「等」には、船舶、飛行機、車両などが含まれ、「物」を守るための武器使用が認められている。

 自衛隊海外派遣のため、一九九二年に成立した国連平和維持活動(PKO)協力法は同九五条の適用を除外した。カンボジアに派遣される陸上自衛隊が武力行使する可能性を小さくする狙いからだ。

 だが、二〇〇一年十一月に成立したテロ特措法、〇三年七月成立のイラク特措法は自衛隊法九五条を適用。「戦地」派遣を前提にした二つの特措法により、武力行使に至るハードルはぐっと下がったといえる。

 もともとROEは、部隊がとり得る行動の限度を政策的判断に基づいて明記し、部隊に法令を順守させることを目的にしている。これにより部隊行動と政府方針が合致する。だが、航空自衛隊が定めたROEは防衛相以外の政治家に示されていない。多くの政治家が知らない「文民統制」が、防衛省・自衛隊で勝手に行われている。

<部隊行動基準(ROE)> 文民統制の観点から、日本防衛、治安出動など自衛隊の任務について、部隊がとり得る対処行動の限度を示した基準のこと。防衛省で策定中とされる。米国は交戦規定(Rules of Engagement)と呼ぶ。

(東京新聞 編集委員・半田滋)

 

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