朝日新聞

米ゼロ金利―世界デフレを食い止めよ (2008年12月18日)

米国のデフレが世界経済を奈落に引きずり込む。そんな悪夢を振り払おうと、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が腹をくくった。

米国がもしデフレの悪循環に陥れば、金融が縮小し、生産や雇用は大幅な減退を迫られる。経済の落ち込む力が強すぎて、金融政策でも財政政策でも手に負えなくなるかも知れない。そうなれば、世界が巻き込まれる悪夢の連鎖が始まる。

FRBが発表したのは、いわゆる「ゼロ金利政策」だ。米国の金融政策史上初めて政策金利を0〜0.25%に引き下げた。金利はマイナスにできないので、伝統的な金融政策はこれで打ち止めだ。

そこでバーナンキ議長は、市場に大量の資金を供給する「量的緩和政策」にも思い切って踏み込む。各種の債券や住宅ローンを担保とする証券などを大胆に買い入れ、企業の資金繰り支援や金融システムの安定を図る。長期国債を買い入れることで、長期金利の引き下げと景気刺激も狙う。

量的緩和政策は、日本銀行が01〜06年にとったことがある。この時は取引先の銀行に現金をじゃぶじゃぶ供給し、銀行が企業への融資を拡大するよう促した。日本では、企業の資金調達の主要ルートが銀行だからだ。

米国では証券市場での資金調達が中心だ。FRBがしようとしている量的緩和は、企業が発行する債券や手形の一種であるコマーシャルペーパー(CP)などを直接買い取り、資金調達市場を丸ごと支えることだ。

中央銀行が企業にじかに資金供給するようなもので、焦げ付きや不渡りになれば、中央銀行の財務基盤に傷が付く。その場合は米政府が損失を補う。

損失があまりにも膨らみ、財政負担が増えすぎると、米政府と中央銀行双方の信認が低下し、ドルが暴落する心配さえある。だからといって、目前のデフレの危機を抑え込まなければ、すべてが失われる。そんな、のるかそるかの勝負どころに米金融政策は来た。

程度の差はあれ、世界の中央銀行が直面する課題は同じだ。欧州中央銀行(ECB)は2.5%、英イングランド銀行は17世紀末の創設以来最低の2%まで金利を下げているが、今後も追加利下げは不可避だろう。

日銀は10月に0.2%利下げして0.3%とした後、市場への資金供給策を拡充してきた。だが、これまではCPなどを担保にして銀行に現金を貸す範囲にとどまっている。

企業は資金繰りに窮しており、日銀もFRBのように債券やCPの買い取りをタブー視すべきではない。焦げ付きや不渡りへの備えは、米国のように政府と協力するしかない。きょうから金融政策決定会合が始まる。今度は、白川方明総裁が腹をくくる番だ。

09年春闘―雇用最優先に仕切り直せ (2008年12月18日)

雇用危機が正社員へも及び始めたなかで、09年の春闘がスタートした。すでに闘争方針を決めた連合に続いて、日本経団連も春闘の指針をまとめ、労使の立場が出そろった。

連合は「8年ぶりのベースアップ要求」を目玉にした。だがいまは、雇用を守ることが緊急で最大の課題ではないか。労使に政府も加わって、雇用対策に全力で取り組むべきだ。

今年は消費者物価の上昇率が一時2%を突破し、賃金が目減りした。労働分配率も6年連続で低下している。「だからベア要求は当然」という空気の中で春闘の準備が進められた。金融危機が深まっても、「急減する外需を補うために内需を支える」という論理でベア要求が維持された。

「ベアより雇用」へ切り替えると、要求のハードルを下げて経営側の土俵に乗ることになり、春闘の求心力が失われるとも心配したようだ。

もちろん雇用にも目は配っているものの、政府による対策を求めることに重心が置かれている。

一方の経営側は、ベア要求は当然のごとく退ける構えだ。さらに雇用の安定についても、初めに検討されていた「最優先の目標」から「努力目標」へ格下げした。こちらも政府による雇用対策を求める大合唱である。

政府による雇用対策が大切なのは言うまでもないが、労使の取り組みも不可欠だ。このまま春闘が本番を迎えると、労使の主張がかみ合わないまま、雇用への取り組みが二の次になるのではないか、と心配になる。

連合はこの際、非正規を含む雇用全体の安定に焦点を絞り直すべきだ。仮に方針通り正社員のベアが実現しても、一方で非正規を中心に雇用がどんどん削られては、内需の下支えにはならない。全体の雇用を守ることで内需の崩壊をどう防ぐかが問われている。経営側を「雇用最優先」の土俵へ引きずり込むことが大事なのだ。

日本の経営は、規制緩和や外国株主の増加を背景に、目先の業績確保のためには雇用削減もいとわない体質へと変わってきた。このままでいいのか、この金融危機で問い直されている。

株主や働き手をはじめとするさまざまな利害関係者のバランスをとりながら成長を図る。そんな新しい経営モデルを模索すべき時代に入った。

かつて企業の労務担当には、国民経済や社会全体の中で雇用を考え、人員削減は苦悩しつつ最後に回す伝統があった。単純に昔に返れとはいわない。新時代に合った形で伝統を復活させることがポイントではないか。

雇用を大切にする新しい経営の理念や仕組みをどう再構築するか。労使が徹底的に知恵を出し合う。振り返って「あの春闘で日本の経営は変わった」といわれるような取り組みが必要だ。

読売新聞

12月18日付 編集手帳 (2008年12月18日)

 遠い昔、路地裏や原っぱで、〈あの子がほしい、あの子じゃわからん〉と歌った方もあろう。子供の遊び、「はないちもんめ」(花一匁)である。〈勝ってうれしいはないちもんめ、負けてくやしいはないちもんめ…〉◆かつて口減らしがおこなわれた貧しい農村から子供を買い集めるとき、「花」(女児)1人につき金1匁が支払われた。中国史家、阿辻哲次(あつじてつじ)さんの「部首のはなし 2」(中公新書)によれば、字面も美しい「花一匁」には(かな)しい一説があるという◆1匁は3・75グラム、一文銭の重さ(一文の目方=文目)から生まれた単位で、匁という字は「文」と「メ」を組み合わせた形ともいわれる。いまでは真珠の計量以外で用いられることはない◆常用漢字表の見直しで、191字の追加と5字の削除が決まった。「匁」も削られる。「はないちもんめ」で遊ぶ子供を見かけぬようになって、すでに久しい。漢字表からも消えることで「匁」は記憶のかなたにまた一歩、遠ざかっていくのだろう◆1匁とはどれほどの重さであったかと、小銭入れを探ってみる。5円玉はぴったり3・75グラム、1匁である。



空自イラク撤収 国のあり方が問われた任務 (2008年12月18日)

歴史的な自衛隊の任務が成功裏に完了した。

クウェートとイラクとの間の輸送業務に従事していた航空自衛隊のC130輸送機3機が、帰国の途に就いた。

空輸は5年間で821回に上り、多国籍軍兵や国連関係者ら約4万6500人と物資673トンを運んだ。イラク復興支援への協力を各国に求める国連安全保障理事会決議の期限が今年末に切れるのに合わせて、撤収を決めた。

空自がこの間、隊員の安全確保に細心の注意を払い続け、1人の犠牲者も出さなかったことは、高く評価されていいだろう。

空自と陸上自衛隊のイラク派遣は従来にない危険を伴うもので、日本の国のあり方が問われた。

仮に復興活動が破綻(はたん)し、イラクがテロの巣窟(そうくつ)となれば、原油の高騰ばかりか、中東と世界の平和と安定が損なわれかねない。

そんな局面でも、危険な任務はすべて他国に任せ、湾岸戦争と同様、自らは資金支援だけで済ませ続けるのか。それとも、一定の危険は覚悟し、人的支援の国際共同行動の一翼を担うのか。

日本が後者を選択し、従来の国際活動から一歩踏み出したのは間違っていなかったと言えよう。

空自は、災害救援などで海外で輸送活動を行ったことはあるが、海外に拠点を置く長期間の任務は初めてだった。他国軍との共同活動を通じて、効果的な部隊運用のノウハウを学べたはずだ。

事前に得た脅威情報を実際の安全確保にどう反映させるか。どんな装備が本当に役立つのか。こうした様々な教訓を今後の国際活動に着実に生かすことが重要だ。

自衛隊は今や、日本有事に備えて高価な装備を導入し、訓練だけしていればいい存在ではない。国内の災害派遣や国際平和協力活動などの「実任務」に部隊を積極的に活用せねばなるまい。

自衛隊は撤収しても、政府開発援助(ODA)などによるイラク支援は継続する必要がある。

イラクの治安は改善しているとはいえ、通常の経済活動ができる状態にはほど遠い。

日本は2003年に50億ドルのODAを表明し、このうち15億ドルの無償支援は実施した。だが、35億ドルの有償支援は、電力、港湾整備など25億ドル分が実施段階に入っただけで、残りの10億ドル分はいまだに内容も決まっていない。

残る有償支援の実施を急ぐとともに、民間企業のビジネスや投資を軌道に乗せなければ、イラク復興支援活動は完了しない。

米ゼロ金利 ついに踏み切った異例の策 (2008年12月18日)

米連邦準備制度理事会(FRB)が、ついにゼロ金利政策に踏み切った。量的緩和策の導入も表明し、前例のない危機対応に乗り出した。

短期金利の指標となるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0・75%〜1%引き下げ、年0・25%〜0%とした。米国の金融政策史上、事実上のゼロ金利は初めてだ。

米国は、昨年12月から景気後退局面に入った。金融危機が実体経済を冷え込ませ、失業が急増している。戦前の「大恐慌」以来、最長の景気後退が予想され、デフレ懸念も台頭し始めた。

FRBは、異例の政策発動で景気悪化とデフレの阻止も狙ったといえよう。「可能な限りのあらゆる手段を用いる」という声明は、強い危機感を示す。

しかし、すでに超低金利状態だったことを考えると、利下げ効果は限定的と見る向きもある。

そこで注目されるのが、FRBの「次の一手」だ。長期国債や政府機関債の大量買い入れによる資金供給など、量的緩和策の導入を明らかにした点である。

金融政策の手段を金利誘導から転換するもので、未知の領域に踏み込むことを意味する。

FRBはこれまで、企業が発行するコマーシャルペーパー(CP)などを積極的に買い入れてきたが、今後、市場への資金供給をさらに拡充する考えだ。住宅ローンなどの長期金利の低下を促し、景気を下支えする狙いだ。

FRBにはモデルがある。日銀が2001年3月から5年間実施した量的緩和策だ。金融機関から手形や債券を大量購入し、デフレ脱却を目指した。

この政策は、金融機関などへの潤沢な資金提供を通じて、景気下支えに一定の効果があったとされる。ただ、量的緩和をストップする「出口」の判断など、運用が難しい面もあった。

当時の日本と、現在の米国の状況は異なるが、FRBは日本の教訓を踏まえつつ、難しいかじ取りを迫られることになる。

危機を乗り切るには、財政政策との連携もますます重要になる。オバマ次期米大統領は大型の景気対策を実施する方針だ。財政・金融政策を総動員し、経済の立て直しを急いでもらいたい。

一方、日米金利差の逆転などを背景に、円高・ドル安が進んだ。日本の景気後退も深刻だ。週末に金融政策を協議する日銀は、米国との協調利下げを含め、追加策の検討を求められよう。

毎日新聞

社説:米ゼロ金利 大胆な政策は細心の注意で (2008年12月18日)

米国がついにゼロ金利の世界に足を踏み入れた。中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、さらに量的緩和も導入し、金融面であらゆる手段を動員すると宣言している。世界最大の経済が予想以上に速いスピードで悪化していることへの強い危機感が伝わってくる。

かつて日本が、数年をかけ徐々にゼロ金利や量的緩和へと向かったのに対し、FRBは一挙に異例の政策手段へと突き進んだ。昨年9月に年5・25%あった政策金利は、わずか1年3カ月でゼロの領域だ。1930年代の大恐慌の研究者で、日本の先例にも詳しいバーナンキFRB議長は、政策の遅れが深刻なデフレや恐慌を招くと警戒したのだろう。

金利を動かして経済のかじ取りをする中央銀行が、金利をなくすことは禁じ手といえる。望んで選択する中銀はないだろう。ただ踏み切った以上、政策の効果を最大限発揮してほしい。

大胆な政策は、市場機能をゆがめる副作用も心配だ。ここはFRBだけでなく、財政を担う政府や民間部門も総力を挙げて、経済の活性化につながる策を実行する必要がある。

米経済は特にリーマン・ブラザーズの破綻(はたん)があった9月以降、悪化の度合いが加速度的に増した。雇用では、農業部門を除いた就業者数が、9月からの3カ月で125万人以上も減少した。今後も一層の悪化が懸念される。

一方、企業の資金繰りは厳しさを増しており、FRBが金融市場に大量の資金供給を続けても、実際に企業が借り入れる際の金利は高止まりしている。

FRBは、流れが滞っている資金を消費者や企業にまで行き渡らせようと、住宅ローンや自動車ローンなどを証券化した商品を積極的に購入していく方針だ。さらに、長期国債の買い入れも検討するとしている。しかし劣化の恐れがある民間の証券も含め、FRBが保有する資産を急膨張させると、ドルの信用が低下し、世界経済をより混乱させる危険性もある。

実際ドルは、米国の金利が約16年ぶりに日本を下回ったことを背景に、円やユーロに対して下落している。円高には、輸入品や海外の資産を割安で購入できるメリットもあるが、急激な変動は景気にさらに冷水を浴びせることになり、注意が必要だ。

オバマ次期米大統領は、「政府の取り組みも極めて大事だ」と述べ、財政面からの景気テコ入れの重要性を強調した。本格的な景気刺激策は政権移行を待たなければならないという事情も、FRBが異例の政策に踏み切らざるを得ない背景になったのではないか。

政権のバトンタッチから間を置かずに、有効な景気対策が実行されるよう、米議会と次期政権には万全の準備を望みたい。

社説:09年春闘 非正規社員守る熱意が足りぬ (2008年12月18日)

09年春闘に対する経営側、労働側の基本方針がまとまった。深刻な世界同時不況下での労使交渉は難航が必至だが、賃上げに加えて非正規社員をはじめ働く人たちの雇用や賃金への不安を解消できるかが大きな課題となる。

労使がすぐに取り組むべき課題は、派遣や期間従業員ら非正規社員の雇用の確保だ。突然、仕事を失って路頭に迷う非正規社員の救済を国だけに任せず、企業の責任で行ってもらいたい。非正規の雇用問題を放置したまま、正社員の賃上げ交渉を行えば、労働運動の存在意義が問われることになろう。

労使の雇用確保への取り組みは一枚岩ではない。日本経団連は来春闘の指針となる「経営労働政策委員会(経労委)報告」を発表したが、雇用確保への熱意がほとんど伝わってこない。「雇用の安定に努力する」と短い記述はあるが、「努力」ではあまりにも弱い。すでに自動車や電機など国内のトップメーカーが先頭を切って人員削減を行い、深刻な雇用危機が加速している。もはや「努力」の段階ではない。

経団連の方針に対して連合は「非正規社員を含むすべての労働者の雇用の安定を徹底させ、積極的な賃上げにより内需喚起を促すべきだ」と反論、「雇用も賃上げも」と主張する。だが、正社員の組合員を中心に組織されている連合は、これまでもそうだったが非正規雇用の問題に全力を投入してこなかった。今回、人員削減を行っている大手メーカー労組の多くも連合に加入しているが、非正規社員の雇用を守る運動が広がっているとは言えない。連合は「雇用を守れ」とラッパを吹くが、企業と直接交渉する加入組合は積極的に動いていないからだ。

非正規社員の解約は正社員にも影響を及ぼす恐れがある。これから始まる春闘交渉の場では非正規も含めた労働者の雇用確保を最重要の課題として協議し、労使で合意すべきだ。

次に賃上げ問題を取り上げたい。連合は8年ぶりにベースアップ要求を復活させる方針だ。労使交渉では物価の上昇分として「1%台半ば」のベアを求めていく。一方、経団連は「企業の減益傾向が強まる中、ベアは困難と判断する企業は多い」とベアに消極的だ。

企業業績にバラつきがあり、雇用や景気の見通しも不透明なこともあり、来春闘ではすべての企業で賃上げを行うことは難しいだろう。賃上げを見送って雇用を優先する企業もあるはずだ。しかし、業績のいい企業にまで横並びで賃上げ自粛の輪が広がることは決して好ましいことではない。景気回復につなげるためにも、賃上げによって内需を拡大することが必要だからだ。

「雇用か賃上げか」ではなく「雇用も賃上げも」という前向きの発想で労使には取り組んでもらいたい。

日本経済新聞

社説2 タイ新首相が直面する難題(12/18)

混乱が続いていたタイの新首相に、最大野党・民主党のアピシット党首(44)が就任した。反政府勢力による空港占拠という異常事態は解消されたが、政治も社会も安定にはほど遠い。タイ憲政史上最も若い宰相は待ったなしで手腕を問われる。

タイの混乱は、タクシン元首相に反対する勢力が「元首相のかいらいだ」としてソムチャイ前政権の退陣を求め、バンコク国際空港などを占拠したことで頂点に達した。

今月2日、憲法裁判所が選挙違反を理由にソムチャイ氏の公民権停止や最大与党などの解党を決めた結果、ついに前政権は崩壊し、反タクシン派は空港などから撤退した。

混乱の中から生まれた新政権にとって最大の課題はタクシン元首相への支持と反対で2分した国民の融和だ。反タクシン派の街頭行動は止まったが、逆にこれからタクシン支持派が街頭に出てくるかもしれない。

タクシン派をなだめるためにも、法と秩序を回復して投資家や外国からの信頼を取り戻すためにも、新首相は反タクシン派の違法行為に対しても厳しい姿勢を示すべきだ。

前政権の崩壊後、連立の組み替えが起きて民主党を軸とする政権が生まれた背景には、軍による調停があった。前政権に比べると、アピシット政権には司法と軍の支持という強みがある。ただ、民主党は下院の約3分の1を占めるにすぎず、連立の維持には組閣人事や政策で微妙なバランス感覚が求められる。

長い目で見れば、都市と農村、エリート層と大衆に分裂した社会の構造改革が課題となる。民主党は最も歴史のある有力政党だが、基盤となってきたのはバンコクを中心とする伝統的なエリート層だ。

近年の選挙では農村の貧困層から圧倒的な支持を得たタクシン元首相の率いる政党に敗れ続けた。社会の分裂構造が民主党と元首相に投影されてきたともいえる。英オックスフォード大卒の新首相は典型的なエリートであるだけに、新政権が農村と貧困層への目配りを怠れば、タイ社会の分裂は一段と危機的になる。

経済の立て直しは急務だ。まずは前政権が反政府勢力への対応に追われて遅らせてきた予算の執行を迅速に進める必要があろう。

社説1 危機打開へ果敢な姿勢示した米FRB(12/18)

米連邦準備理事会(FRB)が事実上のゼロ金利政策に踏み切った。超低金利政策をしばらく続けるとともに、FRBが積極的に資産を買い取ることで、潤沢な資金供給をしていく考えも表明した。

経済の急激な悪化を全力をあげて食い止めるという強い意志をうかがわせる措置である。効果については不透明な点もあるが、米金融当局が積極果敢に金融・経済危機に対応する姿勢を見せたことは歓迎できる。

米国のように金融機能がマヒしているわけではないものの、経済の急降下に見舞われている点は日本も同じだ。18、19日に政策決定会合を開く日銀も、可能な限りの手段を活用して経済の異常事態に対処していくことが求められる。

16日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)は、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標をこれまでの1.0%から0.0―0.25%に引き下げることを決めた。米国の歴史上前例のない低水準である。

そのうえで「例外的に低い水準のFF金利」が当面続くとの見方を示した。金融緩和が長期にわたって維持されるとの安心感を市場に与える「時間軸効果」を狙ったものだ。

また、「FRBのバランスシートの規模を高水準に維持する」という表現で、市場への資金供給を増やす量的緩和政策を取り入れたことを示した。長期国債の買い入れを前向きに検討するほか、すでに始めている政府機関債や住宅ローン担保証券の買い取りの増額も示唆した。

今回の政策決定の内容は予想を大きく超えるもので、市場もこれを好感して株価は大幅に上昇した。

もちろん、今回の措置で凍り付いた米国の金融環境がどこまで改善するかは未知数だ。FF金利はすでに新しい誘導目標に近い水準で推移している。米国の金融機関は貸し出しを絞り込んでおり、事実上のゼロ金利政策でも企業や個人の資金調達コストが急低下するとは考えにくい。

ただ、FRBが「あらゆる手段を使って」成長回復を促す決意を表明したことは重要である。オバマ次期政権が取るとみられる積極的な財政政策と合わせれば、極端な不安心理を和らげるのに役立つだろう。

今回の米国の利下げで日米の政策金利は逆転した。日本の金融・経済環境も急速に悪化している。日銀は長期国債の買い増しやコマーシャルペーパー(CP)の買い取りなどを前向きに検討し、あらゆる手段を駆使して金融緩和に努める決意を示すべきである。

産経新聞

【主張】中期プログラム もっと正直に消費税語れ (2008.12.18)

政府が経済財政諮問会議で決めた消費税を含む税制抜本改革の道筋を示す「中期プログラム」原案は、開始時期を2011年度と明記した。その実行の道筋を法制化することも盛り込んだ。

与党の税制改正大綱は総選挙をにらみ開始時期明示を見送っており、与党内では反発が強まっている。政府原案を検討するプロジェクトチームも設置されるなど調整は曲折も予想される。

本来なら、「骨太の方針」で何度も指摘したように、税制抜本改革は安定的な社会保障財源を確保するため、来年度から実施されるはずだった。景気対策優先で3年後に先送りした麻生太郎政権には改革実行に向け責任がある。

与党の抵抗を抑えて速やかに閣議決定するだけでは足りない。政府原案は実行の法制化について「道筋を立法上、明らかにする」とあいまいさを残す。明確な立法化が必要である。

すでに3年後先送りで社会保障財源には大きな影響が出ている。消費税引き上げでまかなうべきだった来年度からの基礎年金国庫負担割合2分の1引き上げの財源は、財政投融資特別会計の積立金を充てることになった。

これは安定財源ではない一時しのぎのつなぎ財源だ。2011年度からの抜本改革実施が担保されなければ、つなぎの意味も失うから安定財源を前提とする社会保障制度は極めて不安定になる。

与党の税制大綱もそうだったが、この政府原案には重要なポイントも抜けている。抜本改革実施について「2015年度までに段階的に」としただけで、消費税の引き上げ幅明記を避けたのだ。

与党への配慮がそうさせたのだろうが、これでは国民に対する説明責任を果たせない。

自民党の財政改革研究会報告は、社会保障制度を維持するために2015年までに消費税を10%以上に引き上げるべきだとした。先の社会保障国民会議も、消費税換算で3〜4%の新たな財源が必要との試算を行っている。

ただ、これは消費税引き上げだけを行った場合の試算である。税制抜本改革では政府原案も指摘したように、国際競争力の観点から法人税の実効税率引き下げなども必要になる。消費税引き上げ幅がその分拡大することを国民も覚悟せねばならない。

麻生首相はそうした点も正直に語り国民の理解を得ることだ。

【主張】米ゼロ金利 日銀も利下げへの決意を (2008.12.18)

米連邦準備制度理事会(FRB)が、政策金利の誘導目標を現行の1・0%から大幅に引き下げる決定をした。米国では、前例のない事実上のゼロ金利政策への移行である。

サブプライムローン問題に端を発する金融危機とそれに伴う米国の景気悪化は、予想を超えるスピードで進行した。特に9月の証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻(はたん)以降、実体経済の悪化は深刻で、米国の国内総生産(GDP)の3分の2を占める個人消費は縮小し、企業の人員削減も急だ。米国の10〜12月期の実質経済成長率は大幅なマイナスが確実な情勢である。

そうした状況を踏まえ、FRBは一気に利下げし、景気の下支えに全力を挙げる姿勢を鮮明にした。この決定を金融市場は驚きをもって受け止めた。FRBへの信頼度を高め、市場心理が好転する結果になれば望ましい。

FRBは同時に、声明で「利用可能なあらゆる手段を用いる」と量的緩和導入の方針を正式に表明した。具体的には、企業が発行するコマーシャルペーパー(CP)や住宅ローン担保証券などを大幅に買い入れる。

米国のオバマ新政権の始動は来年1月からである。政府の財政面からの景気てこ入れ策には時間がかかる。今後も、FRBには、政策の空白をつくらないようスピード感をもって金融政策を実施するよう求めたい。

米国の大幅な利下げで18、19の両日、政策決定会合を開く日銀の対応が重要となる。米国がゼロ金利に移行したため、日米の政策金利は逆転し、外為市場では円高が進んでいる。

日本国内は輸出減と内需低迷により、企業心理は著しく悪化している。日銀の12月の企業短期経済観測調査(短観)では資金繰りが悪化していると回答している企業も多い。円高がさらに進めば、景気悪化に拍車がかかる。

新たな金融政策の必要性が高まっている。日本の政策金利の下げ余地は少ないが、日銀も米国同様、さらなる利下げの選択肢を排除してはなるまい。CPの買い取りといった措置も検討課題だ。

日本政府も生活支援など23兆円規模の景気対策を発表したが、大半が年明け以降の実施となる。金融政策への依存が大きい。日銀には、市場の変化などに応じた機動的な対応を期待したい。

東京新聞

新型インフルエンザ 万全の備えがいる段階 (2008年12月18日)

従来型のインフルエンザの流行が始まったが、もっと怖いのは新型だ。政府の新型発生時の行動計画案は従来よりも具体的になった。今後さらに細部を詰め、感染被害を最小限にとどめたい。

新型は、鳥インフルエンザウイルスの遺伝子が変異して人同士で感染する能力を得て発生する。

近年、遺伝子変異の幅がますます大きくなり、人同士で感染する危険性が高まってきている。

従来型と違い人に免疫がないことから、わが国では全人口の四分の一が感染、最大二千五百万人が医療機関で受診すると想定されるが、実際にどの程度の感染力、病原性を持つかは不明だ。それだけに事前の十分な対策が求められる。

以前の行動計画案は、国内への侵入阻止や侵入した場合の封じ込めに重点を置いていたが、新行動計画案は、国内侵入は避けられないとの前提に立ち、感染拡大の防止に比重を置いた。

新行動計画案に基づき、具体的なガイドラインも見直した。

最も踏み込んだのは感染者発生時の学校閉鎖だ。各都道府県で一例でも感染者が確認されれば、都道府県が管内の全学校に対し臨時休校を要請できるようになる。

学校での集団生活が感染拡大の起点になりやすいことを踏まえての対策だが、杓子定規(しゃくしじょうぎ)にならないようにすべきだ。臨時休校の範囲について生活圏や通勤・通学圏を考慮して判断してもらいたい。

発生時の医療機関の混乱を防止するため、原則として軽症患者は自宅療養とし、重症患者のみ入院とするのはやむを得ない。

慢性疾患を持つ患者には、服用中の薬剤を多めに処方して医療機関での受診回数を減らして新型の感染の機会を少なくする一方、災害時と同様に電話での診療、ファクスによる抗ウイルス薬の処方箋(しょほうせん)の発行を認めることも妥当だ。

一般国民の協力も具体的に求めている。新型も従来型と同様に、咳(せき)やくしゃみなどの飛沫(ひまつ)や接触で感染する。咳などが出る際にはティッシュで口を覆うなど「咳エチケット」の実行を徹底したい。これだけでも感染の拡大防止に役立つはずだ。

新行動計画案は国民からの意見募集のあと、年明けにも政府全体の方針になる。自治体にも高齢者の医療確保など具体的な計画立案を求めており、今後、政府は準備が遅れている自治体を支援し、全国どこでも同じレベルの対策がとれるようにしなければならない。

中国開放30年 危機克服に政治改革を (2008年12月18日)

中国は改革・開放の開始から三十周年を迎えた。高度成長を続け大国になったが、格差は極端に開いた。金融危機で転機を迎えた発展を持続するためにも不公平を是正する政治改革が避けられない。

改革・開放政策は一九七八年十二月十八日から二十二日にかけて開かれた共産党第十一期中央委員会第三回全体会議で決まった。

十八日に北京で記念大会が開かれる。この三十年、中国は年平均二けたに迫る成長を続けドイツに匹敵する世界第四位の経済大国になった。

しかし、所得格差は米国や日本よりも深刻になり、都市と農村の格差は世界でも最大級になったと中国政府系機関も認めている。

これは中国の発展が米国市場などを目指す輸出と外資中心の投資に支えられてきたためだ。膨大な貿易黒字はあふれる資金となり不動産や株に流れ込み市場をバブル化させ空前の繁栄を演出した。

しかし、二億人以上といわれる農村出身労働者の賃金は伸び悩みを続け格差は開く一方だった。

こうした発展は米国発の金融危機で大きな転機を迎えた。米国市場の不振で沿海の輸出企業は次々に閉鎖され、解雇された労働者が帰郷を始めた。不動産バブルの崩壊で鉄鋼など建設関連の産業が軒並み減産に追い込まれている。

成長を持続するには人口の七割を占める農民の所得を向上させ、内需を喚起するしかないことは明らかだ。今では発展のボトルネックになった大きな格差の背景には、政治改革の遅れがある。

少数の者が先に豊かになることを認めた〓小平路線の最大の受益者が実は一部の党幹部だった。

政治権力のみならず企業や土地など国有資産を支配する彼らは、特権を使い企業改革の名目で企業を私有化し、農民の土地を開発業者に売り渡し巨利を得た。

本来なら、政権党幹部の専横を阻む野党勢力は存在を許されず報道の自由や市民運動も、厳しく制限されている。党が一切を指導する政治体制の下、司法の独立は尊重されていない。

政治体制に手を付けることもなく党幹部など一部特権層に集中した富を再分配するのは至難の業だろう。

中国の現状を憂い言論の自由や三権分立を求める知識人ら三百人以上の署名が先日、「〇八憲章」としてインターネットで発表された。呼び掛けた劉暁波氏を、その言論のみを理由に拘束するしかなかったところに、共産党政権の真の弱さと危機が存在する。

※〓は登におおざと