師走を代表する風物詩といえばベートーベンの交響曲第九番である。市民参加からプロの名演奏まで各地で特色あるコンサートがたけなわだ。
中でも丸亀市で先日開かれた演奏会は、本番前のプレイベントだが、日本で第九初演にかかわったドイツ兵士ゆかりの場所での演奏だった。九十年ぶりドイツ語の歌声が響いた、と本紙香川版が伝えている。
会場の本願寺塩屋別院では、第一次世界大戦中の一九一四年、丸亀俘虜(ふりょ)収容所が設けられ、ドイツ兵約三百二十人が暮らした。その後、捕虜は徳島県鳴門市の板東俘虜収容所に移り、一八年に第九全曲を演奏するほど音楽が盛んとなった。
丸亀ドイツ兵俘虜研究会の調査によると、丸亀では寺院楽団や合唱団が結成され、ベートーベンやシューベルトが演奏された。地元では丸亀の捕虜たちが板東での第九演奏にも関係したと考えているようだ。
捕虜と市民との交流も多かった。楽団員が女学校で模範演奏を披露したり、家具の製作技術を指導するなど、収容所が文化交流にも重要な役割を果たしている。
本番の第九コンサートは二十一日に丸亀市綾歌町であり、全曲が演奏される。「全人類が同胞になる」と歌われる「歓喜の歌」は、ドイツと日本の友情を歌うのにもふさわしい。力いっぱい歌ってほしい。