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【社説】

空自イラク撤収 徹底検証が政治の責務

2008年12月16日

 空自がイラクでの活動を終え撤収を始めた。約五年に及ぶ自衛隊の「戦地派遣」の実態は経緯も含め不透明な点が多い。徹底的な検証が必要だ。ふがいなさが目立つ政治の責任放棄は許されない。

 米英による二〇〇三年のイラク攻撃を機に、当時の小泉政権は戦闘状態が終結していない「戦地」への初の自衛隊派遣を決断した。生命の危険にさらされる厳しい環境下で、一人の犠牲者も出さずに任務を終えることになる。

 陸自と空自は〇四年から活動を開始。給水や道路復旧などに従事した陸自の〇六年撤収後も、空自は多国籍軍の要員や支援物資の空輸に当たってきた。イラクの治安状況回復などを踏まえ、政府は人道復興支援の活動目的を達成したとしている。

 だが自衛隊活動をめぐっては、米軍支援の色彩が強かった印象がぬぐえない。特に空自は八百二十一回の飛行で四万六千五百人と物資六百七十三トンを空輸。詳細は不明だが、大半は米兵や米軍関連物資とみられる。空自機は米軍から「タクシー」とも呼ばれていたという。国際貢献の名に値する活動だったのかどうか。

 名古屋高裁は空自活動を違憲と判断した。政府は「国際社会が高く評価した」と自賛するのなら、国民に見えにくかった活動を明らかにし、憲法との整合性など国会のチェックを受けるべきだ。

 イラク攻撃を日本政府が支持したことの総括もできていない。ブッシュ米大統領ですら開戦理由とした大量破壊兵器が見つからなかったことを「最大の痛恨事」と言及した。それにもかかわらず支持判断は正しかったと、政府がかたくなな姿勢を取り続けるのは不可解だ。方針決定過程を精査し説明責任を果たすことが肝要だ。

 今後「テロとの戦い」の焦点は、イラクから治安悪化が著しいアフガニスタンへと移る。

 与党は先週末、インド洋での給油活動継続法を衆院再可決で成立させたが、アフガンシフトを鮮明にするオバマ米次期政権は、日本に本土派遣も含めたさらなる人的貢献や資金提供を強く迫ることが予想される。

 政府に求められるのは「次」の貢献をあたふたと決めることではない。軍事偏重でなく「平和国家・日本」にふさわしい骨太な外交指針を打ち出すことだ。本来は民意の支持を受けた本格政権が手掛けるべき課題である。衆参ねじれ国会と弱体化が進む麻生政権下での政治空白のツケは重い。

 

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