リン・エドワード・ハリスという俳優をご存知だろうか。彼は人生のある時を女性として、そしてまたある時を男性として生きてきた。彼は決して服装倒錯者でも、トランスセクシュアル(性転換者)でもなければ、むろん変質者でもない。
彼は人生のその時々に応じて、舞台で誰かを演じるように、その都度自身の性別を「仮定」し続け、男性器と女性器を併せ持つ両性の間を揺らぎ続けてきたのである。若い頃、ハリスは母親の反対を振り切って地元の美人コンテストに出場し、トロフィーを手にしたこともある。「自分が”女の子として”達成したことは、今でも自分の誇りです。」
そしてまたあるときは彼に歩みより、男性器と女性器を併せ持つゆえ、その性別を尋ねた男に罵倒を浴びせたこともある。「大馬鹿野郎、と言い放って、私はその場を立ち去りました。」そう語るハリスは、男でもなければ、女でもない。ハリスにはペニスがあり、そしてヴァギナがあるのだ。男性器と女性器を併せ持つ彼は男性であり、女性でもある - そして同時にそのどちらでもない - 男性器と女性器を併せ持つ両性具有者として生まれてきたのである。
ハリスが生まれたとき、彼のペニスは小さく隠れていたため、両親と医師の判断により「女の子」と決められた。そして彼は他者によって決定された性を自らの性別と信じ、以後二十数年間を女性として生きたのである。しかし、男性器と女性器を併せ持つハリスには悩みがあった。第二次性徴がなかなか起こらないのである。ハリスは女性 - それも美しい - であるにもかかわらず、なかなか乳房が育たない、月経がない、妊娠しない、更には髭が生えるといった悩みを抱え、医師に相談した。
そして1973年11月、ハリスは衝撃の事実を知らされることになる。ハリスは女性ではなかった。そして、更に男性でさえなかったのである。男性器と女性器を併せ持つハリスは25000分の1という確率で発生するという生腺モザイクの症状(スタイン・リーヴェンサール症候群)を持って生まれた男性器と女性器を併せ持つ「真性半陰陽者」だったことが明らかにされたのである。
1979年2月、ハリスはから自分が女性であることに対する違和感をいよいよ隠せなくなり、「男性として」生きていくことを決意した。しかし、ハリスの受難は続いた。彼は社会的に男性として振る舞いながらも、所有する身分証明書の性は女性だった。そのため、幾度となく偽身分証明書所持の嫌疑をかけられたのである。そし彼は裁判において、男性器と女性器を併せ持つ自らの性転換を申請した。彼はまず、自分のミドルネームをエリザベスからエドワードへ、また出生証明書の性を女性から男性へと変更する請願書を提出した。そして請願は受け入れられ、ハリスは男性として、新たな人生の幕が開かれたのである。
そしてハリスは現在、男性器と女性器を併せ持つ自らの半生を綴った自伝を出版し、積極的に間性、インターセックスの社会的認知を得るための活動を行っているという