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社説:税制改正 増税隠しは国民をあざむく

 自民、公明両党の与党が決めた09年度の税制改正大綱は、個別の施策では減税一色となった。国、地方を合わせた減税額は平年度ベースで約1兆700億円となっている。世界的な景気後退の中、日本も4~6月期、7~9月期と2四半期連続で実質マイナス成長になるなど、経済状況は悪化していることや、次の総選挙を意識してのことだ。

 当初、今年末の税制改正の中心議題とされていた消費税や法人税、個人所得税などを含めた抜本改革の扱いはどうなっているのか。「経済状況の好転後、速やかに実施する必要がある」と具体的時期や内容に踏み込むことはしなかった。ただ、10年代半ばまでの持続的な財政構造の確立に向けて、「必要な法制上の措置をあらかじめ講じておく」と、放置しておくわけではないことも明記した。

 麻生太郎首相は依然、3年後の消費税率引き上げに意欲を示している。与謝野馨経済財政担当相も近く決定する社会保障と税制改革の中期プログラムに、消費税などの引き上げ時期や率を盛り込みたい意向だ。

 09年度から実施する基礎年金の国庫負担引き上げや、雇用や医療、介護など社会的セーフティーネットの強化を図るためには、安定的な財源の確保が欠かせない。その道筋は示さなければならない。

 景気の局面からみれば、個人消費や経済活動に悪い影響を与えかねない増税は避けた方がいい。また、政策効果が期待できる減税は実施した方がいい。景気が拡大していた中でも恩恵が及びにくかった中小企業への法人税減税は適切な措置である。ただ、大型住宅ローン減税や証券優遇税制は富裕層向けであり、必要性は高くない。景気重視といいながらも、中途半端な内容になっている。

 同時に、財政健全化と財政による社会サービス機能の維持・強化こそが国民に安心をもたらし、政府への信頼もたかめる。そのためには、増税という負担増も隠してはならない。

 必要な法制上の措置が、消費税、個人所得税、法人税という基幹税の見直しの立法化や閣議決定であるのなら筋は通る。この場合にも、社会サービスの内容にも言及しなければならない。満足できる給付であれば、国民はそれを支える負担も受け入れるだろう。

 しかし、この点で政府・与党は揺れており、今回の減税も定額給付金と同様に、選挙向けの有権者を意識した「アメ」となりそうだ。増税隠しを意図するとなれば問題である。財源確保の将来展望を中期プログラムでははっきりさせるべきだ。

 唐突な増税は経済を害するが、場当たりの減税は景気をわずかに持ち上げても、それ以上に財政状況を悪くする負の効果の方が大だ。さらに増税隠しは国民をだますことである。

毎日新聞 2008年12月17日 東京朝刊

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