楽屋話で恐縮だが、職場が変わった。これまでの岡山市新屋敷町の新聞製作センターから、柳町の本社ビルに移った。
新しい仕事場は十三階だ。製作センター時代は四階だった。窓から見える市街地の風景がぐーんと広がった。平素は新聞や本を読んだりパソコンを打ったりと、うつむきかげんの仕事が多い。これからは、遠くを見通すよう心掛けようと思う。
胸に刻んでいる詩がある。詩人石垣りんさんの「朝のパン」という一編である。「空をかついで」(童話屋)に収録されている。「毎朝 太陽が地平線から顔を出すように パンが 鉄板の上から顔を出します(略)」。
書き起こした詩は「私のいのちの 燃える思いは どこからせり上がってくるのでしょう。 いちにちのはじめにパンを 指先でちぎって口にはこぶ 大切な儀式を 『日常』と申します。」と続く。
最後は「やがて 屋根という屋根の下から顔を出す こんがりとあたたかいものは にんげん です。」と結ぶ。詩人のまなざしは何気ない朝の風景に目をとめ、そこに意味を発見し、かけがえのないものを描き出す。
職場の窓からは車が行き交う街の活気が見える。高層階で執筆するようになったが、目線を低く「にんげん」のぬくもりを感じることも忘れないようにしたい。