「素直にお互いを認めることが重要だと痛感しました」。日中韓学生サミットを終えた記者会見で、韓国から九州大に留学中の李昭知(イ・ソジ)さんはこう答えた。留学して日本に滞在しても、日中韓の学生が一堂に会して本音で語り合うチャンスはこれまでなかったという。
東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の枠外で開かれる初めての日中韓首脳会議の福岡開催が決まった11月初め、地元で首脳会議を盛り上げる「未来志向」の学生サミット開催案が持ち上がった。
当初、歴史認識問題が出たら首脳会議に影響するのではないかとの懸念もあった。しかし、今回の学生サミットで学生たちは、自分たちのことをいつとはなしに「東アジア人」と名付け、共通のアイデンティティーを持とうと誓った。
「歴史認識問題は難しいと尻ごみするが、国の立場を重んじる親の世代とは違って、私たちは客観的な立場で前進できる」と中国の留学生が呼び掛けると、日本人学生が「もはや中国に勝つとか韓国に勝つなど自己中心的な態度では、国境を超えた環境問題などに取り組んでいけない」と答えた。
提言では、植林ボランティアなど環境に貢献した見返りに割引航空券や宿泊券が得られる「環境ユースカード」の発行など、自らが汗を流して隣国を知るための提案が出された。また、お互いの歴史認識を共有するために3カ国の大学での授業の様子をインターネットで流すという斬新的な試みも提案された。
大人たちは、いまだ歴史を引きずって遠慮してしまうが、若者は、歴史問題を踏まえた上で共通の環境問題に取り組み、ポップカルチャーやグルメで盛り上がっている。昨年、九州に韓国と中国から渡航した旅行者は70万人余り、前年比2割以上伸びている。数字が示すように国民レベルの交流は深まるばかりだ。
提言を提言のまま終わらせず、学生主導の行動計画を1つでも実現するために、政府だけでなく、地方自治体や民間非営利団体(NPO)などが手を携えて可能な仕組みづくりをお手伝いすることが、緊急に私たちに求められている。 (客員編集委員・加藤暁子)
=2008/12/16付 西日本新聞朝刊=