更新:12月16日 12:00ビジネス:最新ニュース
グリー、高成長は続くか 17日マザーズ上場、SNS会員716万人
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のグリーが17日に東証マザーズに上場する。久々の有名ネットベンチャーの上場で前評判は高い。株式相場の低迷が続き、新規上場企業が減っているなか、果たしてグリーはどう評価されるのか。 ■PVの98%が携帯 SNS「GREE(グリー)」の会員数は10月末時点で716万人。SNSでは国内最大手のミクシィ(9月末で1568万人)、ディー・エヌ・エー(DeNA)が運営するモバゲータウン(同1164万人)に次ぐ規模とみられる。パソコン、携帯電話の両方のサービスがあり、どちらも1つのIDで利用できる。 ただ、今年10月のページビュー(PV)83.8億のうち98.7%は携帯電話と、携帯からの利用比率が圧倒的に高い。ミクシィも携帯電話のPVが66%(9月)と携帯シフトが進んでいるが、グリーはすでに実質的に携帯SNSに近い。会員の年齢構成は19歳以下が28%、20代が37%、30代が24%で、ミクシィより若年層が多くモバゲータウンに近い利用者層といえる。 グリーは2004年2月に田中良和社長が個人で立ち上げた「日本初のSNS」。サービス開始当時の田中氏は楽天の社員で、04年12月に楽天と共同でグリーの前身となる会社を設立、05年2月に現在の企業体となった。現在は楽天との資本関係はない。 当初はパソコン向けのサービスだったが、2006年にKDDIと提携したのを機に携帯電話向けのサービスを本格化した。現在グリーは携帯電話各社で公式サイトとなっているが、KDDIでは「au one GREE」という名称で機能を強化している。 日記を書き、趣味や属性の合う友人との交流を促すというSNSの機能に加え、携帯では無料で楽しめるゲームが重要なコンテンツだ。高得点の「コツ」を教え合うなどゲーム自体がコミュニティーを活性化するほか、ゲームに使う仮想通貨が得られる有料サイトへの誘導、ゲーム内広告などにより収益化に結び付くからだ。 2008年6月期の単独売上高は29億円だった。広告収入が43%で、残りは会員が自分のページを飾るプロフ素材などの販売が占める。09年6月期の単独売上高は前期比3.3倍の99億円、経常利益は同5.6倍の58億円と大幅な増収増益を見込む。 ■ミクシィに後塵 日本初のSNSとしてスタートしたグリーだったが、同時期にスタートしたミクシィに会員の獲得では大きく遅れをとってしまう。ミクシィがマザーズに上場した2006年9月時点で会員数が約600万人だったのに対し、当時のグリーは36万人。ミクシィが女性に好まれる画面デザインで趣味性が高かったのに対し、当初のグリーは機能性を重視していた。このころ田中社長は会員数に大きく差がついたことについて「固いイメージがついてしまった」と語っていた。 当時、両者の大きな違いとされていたのは会員に占める実名の割合だ。グリーは2006年春の段階では「半分近くが実名」(田中社長)だったが、この時点でミクシィはすでに匿名の会員が中心になっていたとみられる。黎明期のSNSは、既存会員による招待がないと利用できない「招待制」と「実名」がサービスの特徴だった。その点でグリーはより現実社会に近いSNSで情報の信頼性は高かったが、ミクシィとの会員獲得競争ではむしろマイナスとなった。 あるIT企業の社員はサービス開始当初にグリーに実名で入会したが、「間もなく使わなくなった」という。実名の自分のページには友人が表示されるため「業界での人間関係が丸裸になってしまい、見知らぬ人から友人の紹介を頼まれるなど息苦しくなってきた」と話す。意図せず匿名化が進んだミクシィのほうが「使いやすい」と受け止められ、両者の会員数には大きく差がついた。 グリーが成長軌道に乗るのは携帯向けサービスを本格的に始めた2006年秋以降だ。携帯向けはパソコン向けより「軽い」雰囲気とした。トップページにニュースやゲームを用意し、自分の専用ページではアバターが大きく目立つなど、モバゲーの路線に近い。実際、簡単なゲームで集客する手法やアバターやゲームに使う仮想通貨など、モバゲーに共通する機能は多い。 ■高成長いつまで グリーが上場するマザーズを始めとする新興市場は低迷が続いている。東証1部などを合わせた2008年の新規株式公開数は49社と、昨年の121社から6割も減少した。上場初値が公募価格を下回ることが珍しくなく、最近では公募価格が想定価格の下限に張り付くケースも目立つ。 公募価格は機関投資家などへのヒアリングで決定するが、グリーの公募価格は想定価格の上限である3300円。ある証券アナリストは「会員への課金と広告の両方で稼ぐので安定感がある」と指摘するなど、前評判は悪くない。 上場時の発行済み株式数と公募価格から試算した時価総額は735億円ほど。これはミクシィの約8割にあたる。グリーの会員数はミクシィの約半分、ページビューが6割ということを勘案すると、高い評価を得ているといえそうだ。裏返せば株価の割安感に乏しいともいえるが、予想株価収益率(PER)で比較するとグリーは約23倍でミクシィの44倍より低く、割安と見ることもできる。 勢いはある。09年6月期に前期比5.6倍の経常利益を見込むが、業績見通しが達成されれば増益率はミクシィ(1%増)、ディー・エヌ・エー(14%増)をはるかに上回る。会員数はこのところ月間30万―40万人ペースで増えており、会員の増加率でも2社を上回っている。 とはいえ、広告市場をはじめ事業環境は急速に変化している。ディー・エヌ・エーはアバター販売が失速し10月に業績見通しを下方修正した。ミクシィも新規事業の費用が膨らんでいる面はあるが、高成長に陰りが見える。ディー・エヌ・エーは株価が年初の約半分まで下落しており、予想PERは16倍台にまで下がっている。SNSの大手というだけで高成長が続く保証はない。 相場が低迷しているからこそ、好業績で勢いのあるベンチャーの上場は注目を集め株価は高くなりやすい。上場による知名度の向上や調達した資金を活用し高成長を持続する次の手を打てるか、それとも早期に踊り場を迎えてしまうのか。経済情勢が悪化するなかで、上場後にどのような成長戦略を打ち出すかがまずは注目されそうだ。
[2008年12月15日/IT PLUS] >>関連リンク (ミクシィの株価/概要/ホームページ) (ディー・エヌ・エーの株価/概要/ホームページ) ● 関連記事● 記事一覧
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