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社説:日銀短観 過剰に萎縮していないか

 日銀短観が発表され、経済の急速な下降を反映し、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、極端な悪化を示す項目が並んだ。

 DIは大企業・製造業の場合、前回9月調査に比べ21ポイント下落しマイナス24となった。下落幅は第1次石油危機直後に次ぎ、2番目の大きさだ。

 全業種が前回調査から悪化したのも特徴だ。需要減に加え、急速に進んだ円高が企業の業況感の悪化を加速している。

 このほか、大企業・非製造業のDIは10ポイント下落のマイナス9で、中堅企業、中小企業も、製造業、非製造業を問わず下落した。先行きでも、いずれもさらなる悪化を見込んでいる。

 前回の9月には、調査途中に米証券大手のリーマン・ブラザーズが破綻(はたん)した。リーマン・ショックの反映が9月調査では不十分で、その分だけ今回調査の下落幅が拡大した面もある。

 しかし、景況感だけでなく、設備投資や収益計画も大幅に下方修正している。雇用も大企業・製造業でプラス8となり、「過剰」が「不足」を上回った。

 バブル崩壊後の長期にわたる不況から抜け出し、日本経済は設備と雇用の過剰を解消して筋肉質になったとされてきた。

 しかし、金融危機が世界を覆い、実体経済が急速に悪化する中、日本が再び設備、雇用の調整を伴う景気後退期に入ったことを今回の日銀短観は示している。

 資金繰りや金融機関の貸し出し態度でも悪化が目立つ。大企業ほどそう訴えている。日銀が再利下げしても効果は限定的で、コマーシャルペーパー(CP)や貸し付け債権の買い取りといった措置も検討課題だ。

 ただ、このところの雇用調整の動きはあまりに激しい。金詰まりを恐れ極端な在庫圧縮に走っていることが、短期間での期間従業員・派遣社員の大量解雇につながっているという指摘もある。企業心理が過剰に萎縮(いしゅく)している面はないか、心配だ。

 政府の景気対策の役割が大きくなるが、効果が高く、将来を見据えた分野へ重点的に取り組むべきだ。

 雇用情勢は悪化しているものの、中堅、中小企業の非製造業ではまだ「不足」が「過剰」より多い。

 人手不足を訴えている企業はまだあり、介護でも人手不足は深刻だ。介護従事者の賃金改善などの施策をとれば雇用のミスマッチの解消につながるはずだ。

 省エネ推進のためのグリーンビジネスの育成も有望な分野だろう。農林水産業も、抜本的な改革を行い産業として自立できるようにすれば、新たな雇用の場となりうる。

 将来について明確なビジョンを提示し、不況から脱する道筋を示すのが政治の役割だ。冷え込んだ企業心理を改善するには、混迷を早急に解消し、政治が本来の役割を果たせるようにすることが必要だ。

毎日新聞 2008年12月16日 東京朝刊

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