でも、「僕の気持ちがわかってもらえなければ他社に売り込みにいきます」ということは当然伝えました。実際にこちらも複数の会社にアプローチしました。こういうことは日本では嫌われるんですが、海外ではむしろ作品に自信があるんだったらそうするべきだっていう考え方なんですよね。
日本では、「あなただけを信じるから他には話を持っていかない」などといった、武士的な考え、義理と人情、仁義などという考え方が主流ですよね。実は僕も日本的な考え方の方が好きなんだけど、海外に行けば海外のビジネスの土俵っていうのがあるから、それに合わすべきじゃないかなと。そういう柔軟性も海外を放浪しているときに身についたのかもしれないですね。
それから大事なのは、交渉や人を説得するときには相手にも準備を与えないとダメ。それは海外での交渉でも同じなんですよね。やっぱり文化も違うし、厚かましくいけばいいってもんじゃないんですよ。多くの人は僕らが海外へどんどん厚かましく行ったと思ってるけど、そうじゃないんですよ。交渉してるときに思ったのは、日本の文化はやっぱり奥ゆかしさだと。奥ゆかしさを忘れちゃいけないなと思ったんですよね。
でもその奥ゆかしさの原点は「強さ」だと思うんです。奥ゆかしさっていうのは、いけるかもしれないとうぬぼれているときに敢えて引くんです。そこは駆け引き……というか強弱ですね。つまりずっと押しっぱなしでもダメだし、引きっぱなしでもダメだったことです。押すべきところは押し、引くべきところは引くっていう当たり前の話なんですけどね。
そうすることで交渉は成立して、結果的に「立ち上がること」もできたとは思うけど、それだけじゃダメで、立ち上がったら前へ歩いていかなきゃならない。そういう意味で今、これからが本当の勝負だと思っているんですよね。 |