お金・給料の新常識
2008年 12月 13日

【カラ売り屋(2)】究極の利回り追う伝説の投資家

「財務分析」だけで巨額の富を生み出す世界のインベスターたち

チェイノスは誰でも手に入れられる公開情報にもとづいてカラ売りし、大きな利益を挙げたのだ。

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■拓銀をムーディーズより早く格下げした会社

日本にはこうしたカラ売り屋はほとんど存在しない。その理由は、投資家層が米国ほどの厚みや多様性を持っておらず、また、成熟度も低いことだ。日本における伝統的「カラ売り」は、信用取引の額が人為的に異常に膨らまされた「仕手株」において、買い方と売り方(カラ売り方)が資金力で張り合うというものだ。

現在は、証券取引法の改正でルールが厳格になり、こうしたカラ売りは存在しえない。日本における米国型のカラ売りとしては、ヘッジファンドの「タイガー・マネジメント」のジュリアン・ロバートソンが、1997年当時、邦銀とダイエーに関しては一貫して「売り」であると主張し、カラ売りを続けた例がある。

カラ売り屋ではないが、基本的に財務諸表の分析だけで企業の社債格付けを行っているユニークな格付け会社が日本にある。株式会社三國事務所(本社・東京都港区虎ノ門)である。通常、格付け会社は、財務諸表の分析のほかに、経営者へのインタビューや工場見学などを行うが、三國事務所は、有価証券報告書など公開されている情報の分析だけで格付けを行っている。おかしなことがあれば、必ず財務諸表に何か兆候が表れるという考え方だ。

こうした格付け手法によって、三國事務所は、ムーディーズより1年4カ月も早い1995年11月に日債銀を投機的格付けに引き下げ、北海道拓殖銀行に関しても、ムーディーズより1年以上も早く、投機的格付けに引き下げた実績がある。

以前、わたしは三國事務所の幹部にインタビューし、どうして財務諸表の分析だけで、日債銀の資産が悪化しているのがわかったのかと尋ねたことがある。相手は答えていわく、日債銀の財務諸表ではなく、同行の融資先の有価証券報告書から日債銀の不良資産を逆算したのであるという。当時の有価証券報告書には、どの銀行からいくら借り入れているのかの明細があり、三國事務所では、日債銀の融資先の有価証券報告書を使って、日債銀の融資ポートフォリオを毎年つくっていたのだそうである。これには脱帽させられた。

参考文献:『ファンダメンタル的空売り入門』トム・トゥーリ著、山本潤監修、井田京子訳(パンローリング、2004年5月)

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プロフィール

黒木 亮

1957年、北海道生まれ。英国在住。カイロ・アメリカン大学大学院修士(中東研究科)。
都市銀行、証券会社、総合商社に23年余り勤務し、国際協調融資、プロジェクトファイナンス、貿易金融など多くの案件を手がける。
2000年『トップ・レフト』でデビュー。『巨大投資銀行』『青い蜃気楼~小説エンロン』など著書多数。最新作『エネルギー』(上・下巻)が早くもベストセラー邁進中。

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