達人のテクニック
2008年 10月 11日

ジム・ロジャーズ 「米国マネーは中国と商品に向かう」

世界三大投資家が予言

プレジデント最新号(2008.11.3号)からチョイ読み!

──リーマン・ブラザーズをはじめとした金融機関の連鎖倒産で、世界的に金融不安が広がっています。投資家として、今回の金融危機をどうご覧になっていますか。

サブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅融資)によってかつてない規模に膨らんだアメリカの信用バブルがはじけたのです。今回のことはアメリカだけでなく、世界の歴史に残るほどに深刻な事態だと言っていいでしょう。この余波は、今後も長く続くはずです。日本のバブル崩壊や1998年から始まったロシアの財政危機も、回復まで10年ほどかかりましたからね。

<strong>ジム・ロジャーズ</strong> Jim Rogers<br>
1942年、米国アラバマ州生まれ。1970年ソロス・ファンド(後のクオンタム・ファンド)を設立。10年間で4000%というリターンを挙げる。著書に『中国の時代』など。
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ジム・ロジャーズ Jim Rogers
1942年、米国アラバマ州生まれ。1970年ソロス・ファンド(後のクオンタム・ファンド)を設立。10年間で4000%というリターンを挙げる。著書に『中国の時代』など。

アメリカは今、コントロールを失っています。かつて債権国だったこの国は、今や世界最大の債務国になってしまいました。債務は13兆ドルにもおよび、借金をしながら国を回しているという有り様です。非常に憂慮すべき状況ですが、政府は有効な解決策を打ち出していない。

米国中央銀行のFRB(連邦準備制度理事会)の度重なる利下げによって、事態はさらに悪化しました。アラン・グリンスパンとベン・バーナンキというFRB議長が二代続けて経済基盤を損ね、米ドルを弱体化させる政策を取り続けたのです。過去の歴史を振り返っても、この政策で長期的に経済が回復した例はありません。住宅の信用バブルに関しても、私は数年前から何度も警告を発してきましたが、ほとんどの人は耳を貸さなかったのです。

これまで米ドルは世界の基軸通貨でしたが、今後はその地位を失うでしょう。時期は明言できませんが、この流れは不可避だと思います。ちょうど、60年代にイギリスのポンドが失墜したときの状況とよく似ています。私はアメリカ国民ですから、ドルの悪口はあまり言いたくないのですが(笑)。

■株を買うとしたら、今は日本株式がよいだろう

──米ドルの次に基軸通貨となるのは何でしょうか。

それはわかりません。ユーロかもしれないし、中国の人民元かもしれません。いずれにせよ、変化の兆しに気づき、時代の潮の変わり目を見抜いた人が得をするのです。ポンドから米ドルに基軸通貨が変わったときも、損をした人と利益を上げた人がいました。

マーケットは常に変化しています。たとえば、今まで堅実な投資先と考えられていた債券は、今後、最大で2~5%程度のリターンしか得られない商品となるでしょう。私はあまり株を持っていませんが、もし、株を買うとしたら、現時点ではアメリカ株よりも日本株を選びます。日本経済も問題は山積みですが、アメリカ株よりは魅力がありますね。

正直なところ、今は様子見の時期です。先週、中国と台湾の株をほんの少し買いましたが、あとは“ウインドーショッピング”をしています。

──ロジャーズさんは、サブプライム問題が起きることも予見しておられました。こうした変化を察知するには、日頃からどういう努力が必要でしょうか。

今回の住宅ブームは明らかに異常でした。アメリカで過去にあんな事態が起きたためしはなかった。頭金もなく、仕事にも就いていない人が、何軒も家を買えたんですから! バブルは必ず崩壊する。過去の歴史を振り返れば容易にわかることです。

投資家として成功したいなら、投資の神様と言われている人々の話を聞くよりも、歴史や哲学を学んだほうがいい。そのために欠かせないのが読書です。歴史書や哲学書から歴史的教訓に学び、物事に対する洞察力を磨く。そうすれば大局をつかむことができるし、将来の変化も予測できる。歴史は繰り返すのです。

自分の目で世界を見て回ることも大切です。私は2度世界一周の旅をして(1回目はBMWのバイク、2回目は特注のベンツで116カ国を回った)、冒険投資家と呼ばれていますが、今、その経験が大いに役に立っている。「次は中国の時代が来る」と確信したのも、88年にバイクで中国を横断し、そこに潜む可能性を肌で感じたからです。

テレビや雑誌、インターネットで得られる知識や情報に頼ってはいけません。賢明な投資家であるためには、自分自身で経験し、自分の頭で考えること。だから私はテレビを見ません。若い人はインターネットに依存していますが、ネット上の情報で「世の中を理解した」と信じている人の視野は狭い。投資で成功したいのなら、それを心に留めて、自分の眼力を磨いてください。

──『中国の時代』という本も書いておられますが、北京五輪後、中国株は、昨年から平均6割以上下がっています。今が買い時だという人もいますし、「リスクが高い」と分析する人もいますが、いかがですか。

私は長期的な中国経済の見通しを楽観しています。今後30年、中国が有望な投資先であることに変わりはない。近い将来、中国経済はアメリカを抜いて世界最大の規模になります。19世紀は英国、20世紀は米国の時代でしたが、21世紀は中国が世界の中心になるでしょう。

中国には資本主義経済が浸透しています。人々は勤勉に働き、収入の約35%を貯蓄や投資に回す。そんな国が成長しないわけがありません。それに比べ、アメリカ人の貯蓄率はたったの2%ほどです。「中国は投資の対象にならない」と言われていた時代から中国への投資を続けた結果、私は700%ものリターンを得ることができました。まず、世間の常識を疑い、自分の眼力を信じる。それが私の投資哲学です。

最近では、中国の農業関連や、航空会社をはじめとする観光業のインフラ、太陽光発電などのエネルギー関連や水資源に関する企業に注目しています。特に、水処理に関連する産業には大きな可能性がある。安全な水の供給は、今の中国にとって大きな問題ですからね。

中国以外の国では、ブラジルや台湾、モンゴルなどが興味深い。広大な国土を持つモンゴルには天然資源が豊富に眠っています。世界的な資源不足を背景に、今後さまざまなビジネスチャンスがあるのではないでしょうか。

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プロフィール

梶山 寿子

ノンフィクションライター

かじやま・すみこ●ニューヨーク大学大学院で修士号取得。TV局勤務、新聞記者を経てフリーとなり、社会、ビジネス、経営と幅広く執筆。主著に『ジブリマジック』『家族が壊れてゆく』『子どもをいじめるな』『雑草魂 アニメビジネスを変えた男』など。

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