内陸地震から半年 バス転落体験を一冊に 奥州

「痛みを分かち力に変えたい」と仲間と会報の封入作業をする小野寺さん(中央)=10日、奥州市胆沢区若柳
 岩手・宮城内陸地震の発生から14日で半年を迎えた。地震当日、岩手県奥州市胆沢区の山中で起きたバス転落事故に遭遇した乗客20人の多くは今なお、「生と死」「幸運と不運」を考えるという。全乗客が属する奥州市の市民団体「胆沢ダム水資源のブナ原生林を守る会」の事務局長を務める小野寺正英さん(65)はこのほど体験談を会報にまとめた。

 小野寺さんは先ごろ、できあがったばかりの会報を会員に送った。
 会報には事故に遭遇したメンバーたちの体験談が載っている。B5判用紙20ページ。びっしりと当時の様子と今の心境がつづられている。

 会報を手に小野寺さんは力を込める。「事故でけがをした人はもちろん、無傷だった人も心に痛みを抱え苦しんできた。会として痛みを分かち合い、生きる力に変えたい」。小野寺さんもけがこそなかったが、バスに乗り合わせた一人だった。

 小野寺さんは事故から約4カ月間、毎日のように仲間を見舞った。だが、全員が退院できた10月上旬、今度は自身の体調の異変に気付いた。

 体がだるくなり、「なぜあの日バスによる観察会を企画したのだろう」「どうして自分は無傷でいるのだろう」と自責の念にさいなまれた。診断結果は心的外傷後ストレス障害(PTSD)だった。

 バス事故で無事に脱出できた人の中にもPTSDに苦しむ人がいることを知った。事故後発行が止まっていた会報を体験談集とし、「会として痛みを分かち合おう」と決意した。

 事故に遭遇した人を含む14人から原稿が送られてきた。多くは「仲間全員を無事に脱出させられなかった自分に対するもどかしさ」「重傷を負った仲間への気遣い」「生きている素晴らしさ」「死ななかった不思議」「事故に遭った不運」などがつづられていた。

 仲間の胸の内を知ることで、小野寺さんは心が少しずつ和らいできた。「生きていることを素直に感謝できるようになった」と話す。続けて「会報で事故に一区切り付けられた。次は目標を持つことが大事」と言葉を継いだ。
 事故に遭ったメンバーたちと来春、山へ行くことを考えている。

[岩手県奥州市バス転落事故] 6月14日午前8時43分ごろ、奥州市胆沢区の林道で乗客20人のバスが地震による土砂崩れに巻き込まれた。12人は脱出したものの、激しい余震でバスは8人を乗せたまま谷に転落、4人が重傷を負った。乗客は奥州市の市民団体「胆沢ダム水資源のブナ原生林を守る会」のメンバー20人。自然観察会の途中だった。
2008年12月14日日曜日

岩手

社会



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