偉大な王者・徳山の功績・貢献に感謝する 石井敏治

 3月16日の新聞記事に「WBCスーパーフライ級前王者 徳山昌守(金沢)が15日に日本ボクシングコミッション関西事務局に引退届を提出した」と報じられていた。
 徳山のボクシング生活の去就については既に噂も出ていたが、これが現実の形になると言いしれぬ寂しさを強く感じる。この思いは多くのボクシングファンも全く同じだと思う。
 徳山は、日本から輩出された複数の世界チャンピオンの中でもまことに秀逸な世界チャンピオンだった。何よりも感銘を受けたのは、強い情熱をもって真摯にボクシングに取り組む姿勢だ。顧みれば、2000年8月、WBC世界S・フライ級チャンピオン曺仁柱(韓国)に挑戦して、12回判定勝ちでタイトルを獲得。2004年6月、川嶋勝重(大橋)の挑戦を受け、1回1分47秒TKO負けを喫したとはいえ、翌年7月に川嶋に挑戦して12回判定勝してタイトルを取り戻している。2006年2月にホセ・ナバーロ(アメリカ)の挑戦を12回判定で退け、通算9度のタイトル防衛を果たしている。
 この間、S・フライ級のリミットを維持するのに相当減量の苦労をされたであろうことは想像に難くない。まさしく偉業である。S・フライ級としては長身の恵まれた体躯で、長いリーチを生かして、何時でもパンチが出せるように左ガードは低く構え、そこから繰り出すジャブ、ストレートをはじめ全てのプローがスナップの利いた強力なものである。また戦法の重要な部分を占めるのが滑らかなフットワークを駆使するところだ。これによって攻防の絶妙な機を捕らえる技はスキルと呼ぶに相応しい。徳山の唯一のミスは前述した2004年の対川嶋戦における川嶋の渾身の力をこめた右フック一発に沈んだ試合だった。しかし、これは川嶋の意表を衝いた右のリードのフックを打った思いきりの良さを褒めるべきで、徳山が謗りを受けるものではない。世界タイトルを通算9度防衛しても、徳山にしてみれば、階級を上げてバンタム級のタイトルに挑戦する希望が適わなかったことが心残りであったであろう。
 ボクシングにおいて決められたラウンドの回数を重ねる中で経験するものは人生行路の中で出会うものとよく似ている。人生では長い時間の中で経験することが、ボクシングでは短い時間に凝縮された中で経験させられる。13年間のボクサー生活を送ったと言うことは大変貴重な経験を積まれたことだ。日本ボクシングコミッションに引退届を提出した前チャンピオンに対して、多くの人々に与えた感動、そして日本ボクシング界に貢献された功績を称え、本当に有り難うと申し上げたい。
 これからは自ら培われた勇気と卓越したボクシング技術を後進に伝授して第二、第三の徳山を育ててほしい。

 

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